働く
JOB

アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

158)バスタブの法則

マーケティング講座

こんにちは!阪本啓一です。ハッピーなサイズとは?


平日午後3時に行列

「幻の羊羹」があると噂を聞き付けて、現場に行ってみました。1日限定150本。1人5本までなので、全員が5本ずつ購入したとすると、30人しか買えません。朝8時30分に引換券が配られるのですが、行列は深夜1時30分からすでにできているというすごい話(1時30分から並んだ人は、それでも9番目だった由です)

東京・吉祥寺のダイヤ街にある「小ざさ」。40年以上も行列が絶えない和菓子店です。商品の品目は、「羊羹」(1本580円)と「もなか」(1個54円)2品のみ。店の広さは間口4尺(約1・2メートル)、奥行き7尺( 約2・1メートル)、広さ1坪(3・3平方メートル)で、何と年商3億円!

私が行った時間は水曜日午後3時。当然、噂の「羊羹」は売りきれていましたが、「もなか」を求める人で10人ほどの行列ができていました。もなかは1日1万個売れるそうです。早速もなかをいただきましたが、甘過ぎず、まるで水のような味わいで、種と呼ばれる皮のほんのりした香ばしさも好ましい。もう1つ、また食べたくなるおいしさです。

そもそも羊羹がなぜ150本限定かというと、工場にある釜の数が3つで、1つの釜で作ることのできる羊羹の数が50本だから。それ以上広げることはしません。なぜなら、品質を保ちながら製造できる限度が1日3釜なので。

ここ、とても大事で、今日のテーマでもあります。つまり、ビジネスのサイズ。商売人は欲がなければなりません。もっと売上を上げたい、儲けたい!この「渇き」はとても重要です。しかし、ビジネスが忘れてならない真理は、「最大ではなく最適」。おそらく、小ざさは「自店の最適なサイズ」を守るため、敢えて拡大しないのだと思います。昨日今日行列のできたわけではなく、40年も続いているわけですから。


広げればいいわけではない

マスメディアでも評判になった、ある地方発の菓子店。仮にXとします。いつも売り切れでした。ところが、都内に実店舗を複数出したところから人気に陰りが見え始め、いまや過去のブランドになってしまっています。先日など、拙宅近所のスーパーマーケットでも見かけたので、「こりゃだめだ」と思ったものです。

では、ブランドXはなぜダメになったんでしょうか。ブランドがブランドになれるのは、提供価値を顧客が「価値あり」と認めるからです。これをブランドの価値資産といいます。Xの価値資産は「稀少性」。にもかかわらず、拡大することで、簡単に手に入るようになり、価値資産を目減りさせることになったのです。適切なサイズというものを慎重に測定しながら、販売量の戦略を立てるべきでした。ただやみくもに量の拡大をしてしまったことが致命傷になったのです。

あるレストラン。いつも行列が絶えない人気店でした。全面改装し、1Fのフロア面積を広げ、2Fにも客席を用意しました。さらに第2駐車場を用意。改装オープン直後はこれまたすごい行列でした。それから半年。ガラガラです。「行列して入る」が価値資産だったわけです。


バスタブの法則

私はこれを「バスタブの法則」と呼んでいます。バスタブをいったん大きなサイズにしたら、それ以前よりお湯を多く入れなければならない。1回だけならまだしも、毎回お湯を入れるたびに多めにおを入れる必要があります。

商売はアップダウンが付きもの。にもかかわらず、拡大するということは、言い換えると、損益分岐点を高くする、財務構造が変わる。ビジネスの体質は財務構造、特に固定費(家賃、人件費)で大きく規定されます。お客さんが何人来て、どれだけ買ってくれるかという外部要因は自店でコントロール不能な要素です。つまり入ってくるお金はコントロール不能。一方、固定費もまた、コントロール不能です。春になれば桜が咲くように、泣いても笑っても決まった金額が定期的に支出されていきます。いかなるビジネスであろうと、このコントロール不能な収入と支出に規定されていることを忘れてはなりません。

では、どんなサイズが最適なのでしょう。それは、「働くみんなが笑顔でいられるサイズ」です。経営者でも株主でもありません。現場のみんながハッピーでいられるサイズは、わかるはずです。しっかり守りましょう。

阪本さんの新著書が発売中!
『共感企業〜ビジネス2.0のビジョン』(日本経済新聞出版社)
http://amzn.to/bVIIkm

(2011年2月16日掲載)