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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

165) 希望を届ける

マーケティング講座

こんにちは!阪本啓一です。


ダウンタウンは受けなかった

いまや押しも押されぬ人気、年収が1人10億円とも言われるダウンタウン。彼らがデビューしたのはちょうど漫才ブームが去った頃でした。大洋氏(現・吉本興業社長)は、東京から大阪へ転勤したばかりの若手社員。ダウンタウンの笑いを見た時、「これまでとまったく違う」と直感したそうす。従来の笑いのパターンとはひと味もふた味も違う。ある日、ダウンタウンに喫茶店へ呼び出され、「ぼくら、面白いと思いますか?」と聞かれました。「うん、面白いよ」すると、ダウンタウンは、切
り返しました。「なら、なんで受けへんのやろ?

この話を、一般企業に翻訳してみましょう。あなたは大氏、ダウンタウンをあなたの部下、「お客さんに受けない」を「業績が悪い」とします。部下である彼女の才能をあなたは認めている。うまく言語化はできないけれども、直感的に「いい」と思っている。どうしますか?「君には才能があるんだから、もっと頑張ればいつか結果が付いてくるよ」と励ます?それとも「違うやりかたがあるはずだから、ちょっと変えてみたら?」。


場を用意する

大氏のやったことはそのいずれでもありません。「受けないなら、受ける場所を用意しよう」
と、心斎橋筋2丁目劇場を用意したのです。1986年のことで、当時、私は行ったことがあります。押し寄せる若者で、ものすごい熱気でした。それまでの吉本といえば、土曜日お昼にテレビでやっている新喜劇。あるいは漫才。劇場はなんば花月かうめだ花月。劇場に来ているメインのお客さんは大人か高齢者で、10代、20代の若者は「つけたし」みたいなものでした。ところが、2丁目劇場は若者が主役。ダウンタウンはものすごく受けていました。漫才ブームの時の漫才はいずれも高速でしゃべりっぱなしのジェットコースターみたいなリズムでしたが、ダウンタウンの芸は、普通の兄ちゃんたちが話し合う、といったスタイルで、新鮮でした。同じ尼崎出身ということもあるのでしょうか、彼らの新しい笑いの「空気感」とか「ノリ」が同じで、いっぺんにファンになった
ことを覚えています。

大氏の「才能が開花するような場を用意する」戦略が、吉本興業発展の礎となったと思います。ドラッカーの謂うところの「過去を体系的に廃棄する」(sloughing off yesterday)わけで、あのまま吉本が団体客や高齢者向けの花月にこだわっていたら確実に時代に置いていかれていました。

島田紳助の分析によれば、漫才ブームの前後では「笑いの質が変わった」そうです。それま
での笑いは子供からお年寄りまで、オールラウンドで笑える笑いが良かった。しかし、漫才ブー
ムが去ってからは、笑いが細分化した。ダウンタウンは、その細分化した一つのゾーンにとっ
てストライクだったわけです。


業績の悪い人を活かす

つまり、「業績が悪い人」というのは、組織が目標とするある基準に満たないわけです。しかしその基準というものは、未来永劫変化してはならない、というわけではなく、ビジネスが社会に生かされている以上、その基準も常に変化し続けるのが当然です。しかしながら、組織の中にいると、外の変化がわかりにくい。勢い、「守り」になってしまう。

業績の悪い人が教えてくれるのは、「そもそもその基準は、時代に合っているのか見直してみたらどうか?」という問いです。本人を責めるのではなく、「なぜ業績が悪いのか」分析する中で、「本当にこの成果測定基準でいいのか?」と冷静な考察をする必要があるのです。

「組織のルール」は、すべて過去にできたものです。ビジネスは「未来のために今日何をするか」が鍵となります。業績の悪い人は、過去のルールに当てはめてみるとloserかもしれませんが、ひょっとすると新しいルールでゲームをすればwinnerになるかもしれないのです。

組織のリーダーは、通常、「過去のルール」におけるwinnerです。だから、「自分にはわからないこともある」という謙虚な気持ちが必要です。業績の悪い人が教えてくれるのは、未来への
ヒントです。

*参考 テレビ東京系『カンブリア宮殿』2011年4月28日放送Peter Drucker , The EffectiveExecutive, p.104

(2011年6月1日掲載)