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ライトハウス編集部
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3)そもそもこの饅頭は…
【物語で売れ!】

マーケティング講座

みなさん、こんにちは! 阪本啓一です。
米国、日本のような成熟した市場では、
ただ安いだけでは顧客から選び取ってもらえません。
今日は「物語で売る」お話をしましょう。


500円のTシャツを着て60万円のエルメスを選ぶ

 成熟した市場の特徴は、例えば日本を見てみると、500円のTシャツを着た人が、60万円のエルメスのバッグを選んでいる、という姿が稀ではなく、普通になっています。顧客は高価格であろうと、低価格であろうと自由に価格ゾーンを出入りします。こういうふうに顧客が価格ゾーンをクロスして購買行動を取る市場を、クロス・マーケットといいます。

 では、クロス・マーケットにおいて顧客が何を基準に製品・サービスを選ぶかというと、「ハートに火をつけてくれる価値」です。そう、極めて個人的な価値観を軸に購買行動が行われるのです。言い換えるなら、ハートに火をつけてくれる価値をいかに上手に顧客に向けて訴求するか、訴求できるかが勝負を決めるのです。いくら安くても要らないものは要らないが、一方、欲しいものには他人が目を丸くする価格でもお金を出す、という購買行動が見られます。原価に100ドルかかったものでも価値を認めてもらえなければ1ドルでも売れないし、原価1ドルであっても価値がしっかり伝わり、ハートに火がつけば、500ドルでも安いくらいだ、と財布のひもがゆるみます。


進学校に入ったようなもの

 では、どうやって価値を訴求すれば良いのでしょうか。連載10thでご紹介した万年筆屋さんのようにモノだけではなく経験も売る、11thのように、ネーミングで顧客のマインドに刺さる、なども有効です。いずれも、自社が顧客に提案したい価値をわかりやすい形(店舗の雰囲気、商品の陳列方法、接客技術、覚えてもらいやすい商品名)にしています。

 クロス・マーケットは、言うなれば「進学校の中に入ったようなもの」です。市場に参入しているプレイヤーたちは皆「デキる」競合ばかり。実力は伯仲しており、多少のことでは「差別化」などできません。「激しい競争」「製品の違いを訴求しづらい」という市場の中で、どうやって繁盛しているのか、事例を見てみましょう。

 広島県宮島。もみじ饅頭発祥の地です。厳島神社の参道が発達して市が立ち、そのまま商店街ができています。この世界遺産の島にヒントになる店があります。もみじ饅頭の藤井屋です。


そもそもこの饅頭は…

 広島にもみじ饅頭のメーカーはたくさんあります。宮島の商店街だけでもおそらく10店は下らないでしょう。その激しい競争の市場で、創業大正14年の老舗・藤井屋はファンから熱い支持を受けています。なぜか。理由は2つ。

 第一に、保存料を一切使わず、もみじ饅頭本来のおいしさにこだわっていること。もみじ饅頭といえば、出張族や観光土産の代表格なので、日持ちすることが求められるのですが、藤井屋は敢えて日持ちを捨てています。代わりに饅頭本来の売りである歯ざわり、味わい、後味を大切にするため、保存料を一切使っていません。

 第二に、もみじ饅頭の由来を書いた小さなカードを用意し、物語をつけて売っています。曰く、
 「もみじ饅頭の由来は、明治に伊藤博文公が宮島を訪れた時、『もみじ谷』の紅葉の美しさとお酌する娘さんの可愛い手を見て『なんと可愛いもみじのような手だろう』と言ったそうです。それを聞いた旅館の女将が、もみじの形をしたお菓子を作ってはどうだろうと考え、作らせたのでした」。

 マーケティングのコツは、「カタチのあるものはカタチのないもので売る、カタチのないものはカタチのあるもので売る」です。もみじ饅頭のように、カタチのあるものは、「そもそももみじ饅頭の由来は…ノ」と物語゠カタチのないものを添えることで、より強固に独自の価値を顧客へ訴えかけることに成功しています。競争の激しいもみじ饅頭市場の中で生き残り、繁盛できているのです。

 あなたの商品には物語があるでしょうか。物語は顧客に価値を一層伝わりやすくするための魔法の粉です。商品にふりかけてあげましょう。


(2005年1月1日号掲載)

【文・阪本 啓一