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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

4)A席になりますがよろしいでしょうか
【マニュアルの1ミリ先】

マーケティング講座

みなさん、こんにちは! 阪本啓一です。
顧客満足を高め、リピートを促すためのシステムが
IT技術の発達とともにビジネス現場に導入され、
購買歴や来店回数の把握などもはや「できないことはない」状態です。
にもかかわらず、秀逸なサービスに出会えません。
なぜでしょう。


●「おや。気がきくね」と思ったが…

 私は出張時、書類が多いのとパソコンを持ち歩くので、小型のスーツケースを利用します。車輌の一番後ろの席だと、椅子の背もたれの後ろに置くことができるので、切符購入の際、JRみどりの窓口で、「グリーン禁煙、できれば窓側の、進行方向一番後ろ」という指定をします。自宅最寄り駅でそれをやりました。

「A席になりますがいいですか」
「Aってどこでしたっけ」
「南側です」
「ミナミ?」
「山、富士山側じゃないですが」
「いいですよ。お気遣いありがとう」

 やるなあ。気遣いが嬉しいじゃないか。富士山を近くに見ることができないですよ、と事前に断ってくれている。丁寧な心遣いです。

 乗りました。富士山側の席は空いていて、私が下車するまでずっと空いたままでした。

 帰り、名古屋駅で同様の買い方をしました。

「A席になってもよろしいですか」(からくりは知っているけれど、わざと)
「Aってどこでしたっけ?」
「富士山側ではないほうです」
「ああ。いいですよ。ありがとう」

 乗りました。予想通り、東京駅終点まで空いていました。


● マニュアル、システムは何のために存在するのか

 どうしてこういうことが起こるのかというと、システムが理由です。みどりの窓口でチケット発券のシステムプログラムは「ABCD」とある座席のうち、条件を入れなければ、まず「A」から出てくるように自動的に設定されているのです。「富士山側」の「D」の席を出すためには、もう1クリックする必要がある。でも、特に富士山側という指定をしない顧客の場合にはわざわざ「手間」(1クリックするだけなのですが)をかける必要はない。よって、「富士山側ではないですがよろしいでしょうか」と一言かけることで、この問題を済ませようとしているのです。顧客によっては「そこまで丁寧に気遣ってくれているんだ」と逆に感激してくれるかもしれません(往きの私がそうでした)。ここに、マニュアルとシステム全盛時代の問題があります。果たして、これが顧客満足につながるのでしょうか。こんな小手先のこどもだましは、すぐにバレてしまいます。車輌に乗れば、すぐにわかることなのですから。

 そもそもマニュアルやシステムは何のためにあるのか、という「そもそも」論をする必要があります。企業や店舗は往々にしてここを勘違いしていますが、マニュアルが存在する理由は「楽になるため」「省力化」するためではないのです。「顧客満足を高めるため」でなければなりません。

 では、どうすればいいか。マニュアルだけではなく、顧客の満足を考えなさい、という精神論だけではなかなか現場は動きません。


●理由を教える

 何ごとも、行動の理由を教えるようにしましょう。先日も、あるブランドの接客マニュアルを見て気になったのが「理由」を教えていないことです。そのマニュアルでは、店頭における販売スタッフの立ち位置まで細かく指定しているのですが、「なぜその立ち位置でなければならないのか」理由が示されていません。教官役のリーダーに「なぜその立ち位置なのですか?」と聞いても、驚くことに、教官自身が知らないのです。「先輩にそう教えられましたから」。

 答えは、その立ち位置にいると、顧客が店にやってきたとき、販売スタッフが顧客だけではなく通路全体を見ることができ、同時にショーウィンドウを顧客に見せることも可能だから、だったのです。このように理由を教えることができれば、別の支店で店舗構成が違った場合でも応用が利きます。

 マニュアルは必要です。システムもなくてはならない時代になりました。そこで止まるのではなく、1ミリ先を理解させるようにしましょう。そのためには、「行動の理由」も合わせて教えることです。


(2005年1月16日号掲載)

【文・阪本 啓一