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ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

12)市場そのものを創り出す
【カテゴリーを創るイノベーション】

マーケティング講座

みなさん、こんにちは! 阪本啓一です。
あなたのビールのお好み銘柄は?


●「第3のビール」

 この原稿執筆をしているのは4月、日本はようやく春らしいポカポカ陽気になってきました。ビール好きの私としては、昼間から飲みたくなって困ります(笑)。

 ニューヨークに住んでいた頃はアンホイザー・ブッシュの「ナチュラル・ライト」を愛飲していましたが、すっきりした味が乾いた空気によく合ったものでした。

 今日は、日本のビール業界を材料にして、「カテゴリーを創る」ことについてお話ししましょう。

 日本では、「第3のビール」が話題となっています。これは、従来のビール、発泡酒とも違う、3番目のビールテイストアルコール飲料、という意味です。

 発端は2003年、サッポロビールが九州地区限定発売した「ドラフトワン」が先駆けで、翌04年2月から全国発売に踏み切り、ビールでも発泡酒でもない新しい味わいが支持され、ヒット商品となりました。

 ビールは水を除く麦芽比率が原材料の67パーセント以上、発泡酒は同25パーセント未満で、比率は違うものの、麦芽が原材料の鍵となっています。ところが、サッポロは「新しいビールテイストのアルコール飲料を創造する」という姿勢から、それまでの業界常識である「麦芽と麦からの呪縛」から自由に開発しました。開発プロジェクトは、数十種類の原料による数百の組み合わせを試し、最終的に注目されたのが「えんどう豆」でした。「ビールといえば麦」からの発想のジャンプです。

 実際に私も飲んでみました。謳い文句どおり、スッキリした後味が爽やかで、ぐいぐいいけます。飲んだあと、なるほどと思ったのは、表記が「その他の雑酒」となっていること。価格も1缶120円と、缶コーヒー並です。ビールのおよそ半分の値段。そうそう、ミネラルウォーターも同じ価格なので、なんだか不思議な感覚がします。


●「Me, too」 の大合唱

 「ドラフトワン」のヒットを日本のビールメーカーが黙って放っておくわけがありません。「Me,too(よそがやるならうちも)」商品戦略が大好きな日本のビール市場です。キリンもアサヒもそれぞれ新商品をひっさげ、市場に参入してきました。

 ビール好きとしては市場がにぎやかになって大歓迎ですが、サッポロは自分が市場を創造する魁さきがけとしての矜持があるのでしょう、05年2月26日付朝日新聞に全面カラー広告を出して、見出しに曰く、「第3のビールと呼ばないで」。概要は、「ドラフトワンは『ドラフトワン』を創ったのであって、第3のビールではない。第3のビールが流行しているから腰を上げた他社とは一線を画したい」というもの。他社が各自第3のビールを手に市場へ乗り込んでくる4月の前に「自社の違い」をアピールする牽制球広告です。「4月に同ジャンルの商品を発売すると、他ビール会社数社が発表しているほどです」という文面もあることからその意図がうかがえます。「Me, too」は「バスに乗り遅れるな」戦略ですが、同時に、「ありふれ」を自ら呼び起こす危険も持っています。「なんだ、違いがわからないじゃないか」と生活者・顧客に思われたら、結果は果てのない値引き合戦が待っているだけです。それを予防するワクチンとしての広告コミュニケーション戦略といってよいでしょう。


●カテゴリーを創る

 日本のビール市場は96年以降、漸減しつづけています。だからこその発泡酒であり、第3のビールですが、生活者・顧客はビールテイスト以外にも、アルコール飲料の選択肢は多様に持っています。

 いま目の前に既にある市場に飛び込んで陣地をどれだけ取れるか、という陣地合戦ではなく、市場=カテゴリーそのものを創造する気合、それ「戦わずして勝つ」最も有効なマーケティング戦略です。かつてマーケティングは「市場シェア」をどれだけ取れるか、が重要なゴールでした。私も約2年、建材ビジネスの営業をやってきましたが、重要なものさしはブランドの市場シェアでした。しかし、市場そのものが縮小しつつあったり、別の市場に置換されつつある場合、現在ある市場の陣地の広さに価値はありません。それはまるで沈みつつあるタイタニック号の上で椅子を並べかえているような虚しい営みです。
 皆さんのビジネスではどうでしょうか。新しくカテゴリーを創造するイノベーション、これこそが、強いマーケティング戦略なのです。

(2005年5月16日号掲載)

【文・阪本 啓一