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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

32)笑顔をいただく
【戦略と戦術を使用禁止に】

マーケティング講座

皆さん、こんにちは! 阪本啓一です。
商売と戦争は、別ですよね?


お客さんと戦うのではなく

 ある日本のテレビ番組で、味はいいのにお客さんがさっぱり、というラーメン店が取り上げられていました。立地がラーメン店ひしめく激戦区、しかも駅から1番遠い場所にある、ということで、「『敗因』は出店場所が良くない、1度うちのラーメンを食べてもらえば、お客さんは味の良さを認めてくださる」と、頑固一徹の店主は思っているようです。番組が調べてみたところ、確かに味は良い、店のスタッフの接客も素晴らしい。番組は、この店のテレビCMを一流のCMクリエイターに制作してもらい、一発逆転する、という企画でした。でき上がったCM。さて、どうするか。

 冒頭文字コメント「これまではお客さんと勝負していました。でも、これからはお客さんから笑顔を戴くことを目指します」。画面には開店を待つお客さんの行列、列、列、列。忙しげに立ち働く店のスタッフの顔。最後においしそうなラーメンのアップ。素晴らしい出来栄えのCMです。

 私はこのCMから大きなことを学びました。この店にお客さんが少ない原因は、味でも接客でも立地でもなく、たった1つ、店主のお客さんに対する姿勢にあったのです。これまでは「どうだ。この味のわからん客は、客のほうが悪い」という、「お客さんに戦いを挑む」姿勢でした。腕のいい職人にありがちなことですね。でも、お客さんはラーメンを楽しみたいのです。おいしさで笑顔が欲しいわけです。店と戦うつもりなんて、毛頭ありません(当然ですよね)。


「戦略」「戦術」に代わる言葉を

 私はずっと、商売(ビジネス)に「戦略」や「戦術」という戦争用語を使うことに異和感があり、かといって適切な用語が見つからなかったのでそのままにしていました。実際自分でも使用しています。しかし、ラーメン店のエピソードではっきりと、「やはり違う」とわかりました。商売は、「戦い」ではないのです。なぜなら、

他社と戦うのでしょうか? NO
顧客と戦うのでしょうか? NO
時代と戦うのでしょうか? NO

 いずれも違いますよね。

 商売はあくまで、顧客に笑顔になってもらうために営むのです。同時に、マーケティングでよく言われるような、顧客を「囲い込む」「獲得する」「深堀りする」といったことはできるはずがないし、目的にしてはいけません。なぜなら、この前提からは、売り上げを上げるための正しい結論が得られないからです。

 戦略にせよ、戦術にせよ、商人が顧客を操作してどうかできる、ということを前提に話が進められているわけで、そんなこと、あり得ません。あっちを向いている顧客を、無理矢理こっちに振り向かせるなんて芸当はできません。

 にもかかわらず、ビジネス書の中には、「顧客をマネジメントする」という趣旨のことが書かれていますし、現に私も書いてきました。間違いです。


お客さんの笑顔をいただくために

 ある店の売り上げが落ちてきた。会議が開かれます。店長に、社長から質問。「どんな手を打つんだ? 戦略はあるのか? 具体的な戦術は?」。この会議が有効な解を出せない理由は1つです。店長が悪いわけでも、店頭スタッフの資質やトレーニング不足が問題なわけでも何でもありません。現に、たどたどしくても笑顔一所懸命に接客しているスタッフに、悪い印象をもつお客さんはいません。前提が間違っているから、いいアイデアが出るわけもなく、最後は店長やスタッフの「人間性」や「やる気」「がんばり」「努力」といった、しんどくて重い空気を醸し出す結論になってしまうのです。

 社長の拠って立つ前提と会議目的が間違っています。「手を打ってお客さんが戻ってくるわけがない」のですから。

 まず、「戦略会議」から「企画会議」と呼び名を変えることから始めましょう。そして、戦略は「企画」、戦術は「行動」と、言い換えましょう。会議の目的を「どうやったらお客さんから笑顔が頂戴できるか」にするのです。すると、会議も楽しい空気に変わるでしょう。

 皆さんも、社内で「戦略」「戦術」を使用禁止用語にしてみてください。すべての企画の目的を「お客さんの笑顔をいただくために」とするのです。「その企画を行動することによって、お客さんの笑顔をいただけるのかどうか?」がものさし。驚くほど業績が上向きますよ。

(2006年3月16日号掲載)