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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

36)いつも いちばん いいものを
【本道を歩こう】

マーケティング講座

皆さん、こんにちは! 阪本啓一です。
老舗はなぜ老舗になれたのでしょう?


明治屋の無料情報誌『嗜好』

 東京駅前、京橋でビジネスランチをとることになり、顧客の指定で明治屋京橋ストア地下1階にあるレストランに行きました。店内はまるで昭和、サービスしてくださるフロアスタッフも年配のベテラン揃いでソツがなく、安心して食事を楽しむことができました。

 レジの横にふと目をやると、そこにヨコ10センチ、タテ18センチ程度の小冊子『嗜好』が。センスのいい装丁は、表紙に竹久夢二の絵を配し、タイトル文字のフォントはいかにも大時代がかっています。聞くと、無料で配布している由。ありがたく頂戴しました。企業が発行しているフリーマガジンやフリーペーパーは、自社の製品・サービスの宣伝で埋まっていることが多く、面白いものは少ないので、実はあまり期待していませんでした。電車に乗り込み、しばらくは持参の本を読んでいたくらいです。ところが、ふと、気分転換に『嗜好』を手にしてみると…。ハマってしまいました。


読み応え充分!

 巻頭インタビューは「心と体と生きる力」と題し、帯津良一・帯津三敬病院名誉院長の興味深いホリスティック医学の話題。20ページのボリュームで読ませてくれます。ホリスティック医学は、人間の身体を心も精神も一緒に全体としてとらえ、診るものです。現代医学の最先端を知ることのできる内容です。

 話は逸れますが、実は現在、私は独自の経営理論を構築しようとしており、ホリスティック医学の良いところを取り入れることができないか、研究中なのです。従来の経営コンサルティングのアプローチは、経営の悪い箇所、例えばブランドならブランド、ファイナンスならファイナンスと、「要素」のみを「診断」し、「治療」する、いわば「要素還元主義」を取ります。

 しかし、会社や組織というものは人間によって成り立っているもので、前号の本コラムで述べているように、「そこで働く人のJOY」が大いに業績に関係します。そして、働く人は、「ブランド」という要素だけでJOYを奪われたり得たり、ということはまずあり得ず、「会社全体の空気」の中で呼吸してJOYを感じたり、失くしたりしているわけです。よって、ホリスティックに経営を診断し、手を打つ、というアプローチでなければ効果が出ません。

 話題を『嗜好』に戻しましょう。マドリード在住の画家・堀越千秋氏、北ドイツ・バンテルン村在住の原田千絵氏、オーストラリア・シドニー在住のロビンソン治子氏のエッセイが掲載されています。おかげで国際色豊かな空気が誌面に漂い、創業120年、海外から高品質の食料を輸入し、文化とともに日本に紹介してきた明治屋らしさがうかがえます。そして、竹久夢二の画業について、夢二のさまざまな作品写真とともに、澤田城子氏の文章が語りかけます。日本文化の誇る夢二の人生と作品をたどることで、明治屋のもう一つの顔、即ち、日本文化の伝承も感じ取ることができるのです。


老舗とは、一つのテーマを追い続けること

 「食物としての鶏卵」(明治43年4月号)、「芥子の話」(大正元年9月号)など、バックナンバーの記事を当時の仮名遣い、イラストのまま掲載することで、明治、大正時代の日常生活を垣間見ることができます。

 今回のタイトルにした「いつも いちばん いいものを」というのは明治屋の企業理念です。同社ウェブサイト(http://www.meidi-ya.co.jp/company/message.html)に掲載されている社長メッセージは、次のようなものです。


 明治屋は、創業以来の経営理念『いつも いちばん いいものを』をモットーとし、食のパイオニアとして、日本の食文化向上に取り組んでまいりました。

 この歴史の中で培われた確かな品質を見る目、新たな価値を創造するフロンティアスピリットで、多様化する市場環境に対応すべくお客様視点での経営をこれからも続けてまいります。

「老舗」とは、ただ歴史が長いだけではなく、一つのテーマを徹底的に追い求め、実現する企業行動の結果、与えられる称号なのだなあ、と思います。


本来の広報誌

 そして、『嗜好』は、老舗としての企業活動の重要な一環、「本来の」広報活動を支援する雑誌と言えるでしょう。ただ単に製品・サービスを掲載してこと足れり、とするのではなく、文化発信、文化伝承の役割を果たしています。私は、『嗜好』に深く学ぶことができました。企業は、他社を蹴落としてでも勝ち残る姿勢ではなく、社会に継承できる文化を発信できなければいけない。そんな点も学びました。

(2006年5月16日号掲載)