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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

39)強みを活かす
【だれにも強みはある!】

マーケティング講座

皆さん、こんにちは! 阪本啓一です。
あなたの強みは何ですか?

 ドラッカーの教訓の中で私が一番共鳴していることは、「自らの強みを知り、強みを活かせ」です。別の見方をするなら、「弱い部分は捨てる」です。マーケティングや経営の現場で活用できます。


「動かなくていい」

 ある中学校剣道部の話です(*)。やる気なしのダメダメクラブだったのが、赴任してきたA先生の素晴らしい指導のもと意識改革し、熱い気迫に満ちた強いチームに変身を遂げました。この剣道部に、ある1人の女生徒が入部してきました。Sさんは体重100キロ、小学校の体育の評価はずっと「1」の、いわゆる「運動オンチ」です。小さい頃から太っていることを理由に友達にからかわれ、小学校時代は登校拒否でした。中学に進学し、部活動見学の折、たまたま訪れた剣道部道場に満ちるすさまじい気合や、竹刀を打ち合う音に惹かれて入部を決めたといいます。

 Sさん、その後の努力によってレギュラー入りを果たし、さらに試合の際(剣道団体戦は5人でチームを組みます)、最後に出る「大将」になることができました。A先生のSさんに指導した内容が、今日のテーマ「強みを活かす」そのものです。先生はSさんに「竹刀を構えたら、その場から動くな」「面や胴打ちの練習はいいから、相手が打ってきたら竹刀を返して小手を打つ練習をしなさい」と指示しました。動きが機敏ではないSさんに、面や胴の練習をさせるより、どっしり構えて、相手が打ち込んできた竹刀を返して逆に小手を取る技を磨きなさい、つまり、強みを活かしなさい、というわけです。よくあるように、「君は動きが鈍いから、速くしなさい」という、「弱点克服」の指導はしなかった。三年間ずっと小手だけを練習しました。するとそのうち、返し技の小手で一本取ることができるようになったのです。


引き分けに持ち込む

 Sさんとは対照的に、体が小さくて動けない生徒もいます。その子には、「ひたすら相手の攻撃を受ける」練習をしてもらいます。チームのために、試合時間の3分間、勝てないまでも負けないようにするのです。つまり、「必ず引き分けに持ち込める」選手です。こういう選手を相手の大将にぶつける。大将は腕自慢ですから「勝ちに」きています。それが勝てないのだから、心理的ダメージは大きい。野球でいう、犠牲バント、犠牲フライみたいなものですね。

 指導者は、選手一人ひとりの性格と強みを見抜く目利き力が必要です。経営も同じく、自社のブランド、商品の強み、弱みを知り尽くしていなければ、有効な手は打てません。そして、常識的には弱みとされている条件も、工夫一つで強みに変えてしまう方法もあるのです。


立地条件が悪い

 近所に新しく蕎麦屋が開店したというので、出かけました。最寄り駅から車で20分、幹線道路から外れた、住宅街の奥まった場所の出店です。看板をようやく見つけると店名の傍らに、「中で元気に蕎麦を打っています」と書いてあります。それを見ると、ついニヤリとしてしまいます。「中で元気に」いいじゃないですか。

 昭和初期に建てられた平屋の民家をお店に改造したとの由。格子戸の玄関を開けると土間があり、上がり口に「ようこそおいでくださいました。従業員一同お待ちしておりました。どうぞおあがりください」と書いた札が置いてあります。客はここで靴を脱いで、座敷に上がるのですが、この手書き札にもまた、心を温められる思いがします。

 蕎麦は大変おいしく、お店の人にお礼を言ったついでにいろいろと話しました。味には自信があるのだけれど、立地条件が悪いため、開店しても果たしてお客さんが来てくれるか、その一点だけが心配だったと言います。しかも駐車場がありません。それほど地の利が悪いからこそ、来ていただいたお客さんには必ず満足して帰っていただこう、そう決心したといいます。お店が「全身で」お客さんをウェルカムしている雰囲気は、ここから来ているのだと感心しました。このお店は立地条件に恵まれていないことを、逆に「強み」にしてしまったのです。

 「季節のお知らせをお届けしますので、よろしければご住所とお名前をお願いいたします」と、結婚式の披露宴受付で書くような芳名帳が置いてあります。これで顧客との対話が可能になります。お客さんにとっては不便な場所であるほど、「自分だけの隠れ家」的な店となり、友人を案内して蕎麦で一杯やれる、というものです。

*剣道部の事例は、林田明大『心が技術に勝った』(三五館)から引用しました

(2006年7月1日号掲載)