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現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

59) 企画力は絵で鍛えられる

マーケティング講座

皆さん、こんにちは! 阪本啓一です。
商売力は企画力です。
企画良ければ商売繁盛!
でも企画力は、どうすれば磨くことができるのでしょうか?


巨匠・宮崎駿の秘密

 あるドキュメンタリーで、宮崎駿監督の新作映画創造の現場を観ました。2008年公開予定『崖の上のポニョ』がどのような創作プロセスを経て生まれたのか。私が日常、コンサルティングやブランド創造で活用しているプロセスと共通しているものがあり、とても興味深かったです。

 それは、監督がイメージボードを作成していたこと。ジブリ作品は、『ポニョ』に限らず、常に、鍵となる数枚の絵が先にあり、それらに付帯しストーリーが制作されていきます。例えば、『千と千尋の神隠し』なら、「豚になってしまったお父さんとお母さんの前にいる千尋」「千尋が何かお湯の中に刺さっているものを引き抜こうとしていて、湯婆婆が扇子を両手に応援している」「身体が大きな怪物になってしまったカオナシが千尋に何かを渡そうとしている」といった絵がそれぞれ1枚のイメージボードになっています。ストーリーはその前後を埋めるように作成されていきます。


本質の1枚

 イメージボードは創作スタート時点で何枚か描かれますが、「これが本質」とされるものは、たったの1枚のようです。『ポニョ』の場合、「帰ってくるポニョ」として、「巨大な魚たちの群れ(これによって、海面上昇を表現している由)と、その1匹の頭上にすっくと立つポニョ」の1枚を得たとき、宮崎監督は、「ようやく本質に至った」とつぶやきます。今回の映画は、作画手法でも「コンピュータを一切使わず、水彩画やパステル画風の手描きで表現する」という新たな挑戦をします。その作画手法を使って描きこめられていました。かつて1度も使ったことのないパステルを使い、「ヘンだよね、この絵」「怖いよね、この色」とつぶやきながら、監督は描いていました。その「ヘン」「怖い」という形容詞に、「自分自身の才能への挑戦」を感じ、創作者として、鬼気迫るものがありました。

 いかなる企画であっても、「ヘソ」のような本質があるものです。それを1枚に表現する。ブランドデザインであれば、ブランド・シート1枚に描く。描けるまでに考え抜く(68th WAVE「ブランド・シート」参照)。


企画は手書きで絵にする

 要するに、僕らは世界をどう変えたいのか。
 この企画が実現したら、世の中どう変わるのか。
 企画をイラストにしてみよう。

 例えば、新製品の企画の場合は、その製品を買う顧客の姿「そもそもだれがこれを買うの?」をイラストにしてみよう。
 何かのイベントの場合は、イベントを空中から俯瞰したときの絵を描いてみよう。
 イラストにできればその企画はOK、できない場合は、もう少し考えてみよう。

*拙著『企画心』(ビジネス社P156-157)より引用

 私はコンサルティングの仕事をする際、常に1枚のシートに図化することを癖にしています。ネットショップを始めたい、というクライアントには、ホームページをどういう風にしたいのか、1枚の絵に描いていただきます。必ず手書きで。パソコンのアプリケーションソフトを使うと、美しく、きれいですが、「きれい」が落とし穴となります。なぜなら、ソフトではできない機能があると、そのために企画が矮小化されてしまうではないですか。人間の頭脳は無限大の大きさを持っていますから、その中身を表現するのは、やはり手書きが1番なのです。


お客様が殺到するイメージを共有する

 ある、小売店のオープニング・コンサルテーションのこと。開店準備のためのマーケティングチームと約1年、プロジェクトを組んだのですが、そこで作成したイメージボードは、新店のオープニングの日、お客様が行列をして、開店を待ってくださっている絵にしました。店の前の駐車場を幾重にもお客様が列をなしてくださっている。それをメインの絵とし、サブは、そのお客様の行列を、店内からガラスの壁を通して見ている自分達。自分達とガラス壁の間には、何列ものショッピングカートが、お客様の入場を今や遅しと待っている…そこまでディテールに凝って描きました。この2枚の絵を、準備室の壁に貼り出し、何か行く手を阻む障壁にぶつかるたび、みんなで眺めては元気を振り絞ったものです。

 さて、1年後のオープニング当日。私たちチームメンバーは全員、自分たちの目を疑いました。

 イメージボードに描いたのと寸分違わない光景が、店の外に広がっていたのです。お客様が幾重にも、列をなして殺到してくださったのでした。絵の力を感じました。

(2007年5月1日号掲載)