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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

63)社員をサーフィンに行かせよう

マーケティング講座

皆さん、こんにちは! 阪本啓一です。
素晴らしい経営書と出会いました。
これぞ10年に1回出会えるかどうか、という名作です。
私は手にしてから既に4回読み返しています。
座右の書の1冊になりました。
ご紹介します。


なぜビジネスをするのか

 伝統的ビジネス誌にある典型的なアメリカンドリームは、起業し、できるだけ早く育てて株式公開、「企業価値」を高めて一番高く買ってくれるところに売却、儲けたお金でアーリーリタイア生活に入り、ゴルフやヨットを楽しみながらネットで株式投資などの資産運用をする、という生活です。起業家にとって真の商品は製品・サービスではなく、「会社そのもの」。そんな彼にとってCSRや環境問題は「頭を屈めてやり過ごす」向かい風でしょう。

 しかし、本当に私たちがビジネスをする目的は「会社を高値で売れる商品として育て上げること」でしょうか? パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードは、はっきりノーと言います。


私たちの地球を守るため

 シュイナードの著作『社員をサーフィンに行かせよう』(邦訳・森摂訳、東洋経済)は、パタゴニア創業者の経営哲学にどっぷり浸ることができます。現時点ではユニークですが、実はこれぞ本物の経営。

 シュイナードは、ビジネスの目的を「地球を守るため」と断言します。同社の存在意義は「『自然破壊と文化の崩壊を避けるために、すぐに取りかかるべき数々の勧告』を実行に移すこと」「従来の常識に挑み、信頼できる新しいビジネスの形を示すために存在する。現在広く受け入れられている資本主義のモデル、果てしない成長を必要とし、自然破壊の責めを負ってしかるべきモデルは、排除しなくてはならない。パタゴニアとその一千名の従業員は、正しい行いが利益を生む優良ビジネスにつながることを実業界に示す手段と決意を持っている」。そして、「従来の規範に従わなくてもビジネスは立ちゆくばかりか、いっそう機能することを。百年後も存在したいと望む企業にとっては、とりわけそうであることを」。

 この本は極めてラディカルで、刺激的です。美しい理想論だけが並んでいるのではなく、現実に世界に対して行動している事実が述べられているので、説得力ある主張になっています。


社員をサーフィンに行かせる理由

 パタゴニアの本社はカリフォルニア州ロサンゼルスから北に約百キロ、太平洋を望むベンチュラに、日本支社は神奈川県鎌倉市にあります。なぜなら、それらの地が「本当に」社員がサーフィンに「いつでも」行ける環境だからです。シュイナード自身がサーフィンに行ったり、登山に出かけたりと、1年の半分は会社にいません。これを彼はMBA(Management by Absence=不在による経営)と呼んでいます。書名の「社員をサーフィンに行かせる」理由がまさにパタゴニアを新しいビジネスたらしめているものです。

 紙幅の関係上詳しくは述べられませんが、本質は、パタゴニアのフレックスタイムとジョブシェアリングの思想を具現化したもの。社員一人ひとりが主人公意識を持ち、責任を果たして成果を出すことで会社に貢献し、会社は社員を信頼して任せる。社員相互は融通性と協調性を発揮する。根底にあるのは会社の強固な理念(Philosophies)の理解と実行です。社員の動きをすべて、綿密に目を光らせて「管理」する思想など、みじんもありません。


less is more(少なければ少ないほど、いい)

 印象的だったのは、「顧客がうちの製品をなるべく長く使い続け、買う回数が少なければ少ないほどいい」という思想です。通常の企業なら、「もっとたくさん買ってください!」と叫ぶところが、逆。つまり、「店で買われた商品の90%が、60〜90日でごみ箱行きとなっている」事実が地球環境に良いはずがない、製品を製造し、顧客へ届けるための輸送コストを考えると、新しく製造する製品は少ないほどいい、という結論にならざるを得ない、というわけです。

売上高の1%を寄付

 シュイナードは2001年、有志と「1%フォー・ザ・プラネット」という組織を立ち上げました。自然環境の保護及び回復を精力的に推進する人々に対し、少なくとも純売上高の1%を寄付すると誓約する企業の同盟です。個人で地球環境に対しできることは限られているが、企業なら影響力を行使できる。ビジネスの新しい価値を提案するものです。お題目や危機感を述べているだけではなく、具体的に行動を起こすこと。これこそが、真の「持続可能な」企業経営と呼べるものでしょう。

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 本書から学ぶことはそれこそ山のようにあり、とても全部は紹介しきれません。すべてのビジネスパースンにとっての必読書だと信じます。是非、お読みになり、自らのビジネスに照らし合わせて考える素材にされることをお勧めします。

(2007年7月1日号掲載)