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ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

67)ローカルに徹する

マーケティング講座

皆さん、こんにちは! 阪本啓一です。
強いブランドを作るためには、「他にないとんがった特長」が必要です。
とんがりの方法は様々ありますが、その1つに、
「ローカルに徹する」があります。


ないないづくしの町

 岩手県葛巻町。北緯40度、約435平方キロある町面積の97%が標高400m以上の高地、86%が森林という山村です。1960年に約1万6千人いた人口が、2007年には8115人、世帯数2909世帯まで減少(6月1日現在)した、典型的な過疎地。

 何と、毎年150人の人口減で、町にいる牛の数は1万3500頭、人より牛のほうが多い。人口構成では、高齢者比率が高く、60歳以上が39%です(この数字は03年4月1日のものなので、4年後の現在はもっと高まっていると推測されます)。

 さらに、よくある観光資源が皆無です。駅がない、ゴルフ場がない、インターチェンジがない、温泉がない、スキー場もない。牛が多いといっても牧場比率は総面積の3.2%、5.8%ある原野の方が多いという、決して自然条件にも恵まれているとはいえない環境です。まさに、ないないづくしの町。


マイナスから始める

 ここまでなら、「やはり地方は厳しいよね」で終わる話です。ところが、葛巻の人々は、この「ないないづくし」、ゼロどころか、マイナスの環境をプラスに転じました。

 地方によくあるのは、「いつかは大都会のように」という、「都会志向」です。あるいは、「名物志向」。ランドマークになるような巨大な観音像を作ってみたり(笑)、公共投資の景気刺激策で、橋や誰がいつ使うのかわからない巨大音楽ホールを建ててみたり、しちゃいます。

 結果、一層の経済沈下。これが日本の地方の一般的な「施策」なのですが、葛巻はその逆を行きました。徹底的に「ローカル」を極めたのです。

 「いつかは大都会のように」ではなく、「ローカルを徹底的に深堀りして、他にはないローカル要素を活かしきる」。


やっかいな風を味方に

 葛巻は高地にあるため、風が強い。通常、風は牧場の柵を倒したりして、やっかいものです。しかし、一見マイナス要素の「強い風」を何かに利用できないものか、と考え、出た答えが、風力発電。高原の尾根沿いに15基設置されています。

 風力発電の損益分岐点は風速が毎秒6mのところ、葛巻は8mあるので、充分採算が取れるばかりか、余裕です。年間の発電電力量が合計5400万Kwh、1万6千世帯分の電力を供給できます。1Kwh当たり10円としても売電収入は5億4千万円!

 日本の法律も味方してくれています。「電力事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(通称RPS法、03年4月から施行)のおかげで、自然エネルギー利用を国が後押し。具体的には、電力会社は発電量の一定割合を自然エネルギーにて賄わなければならないというもので、葛巻の風力発電にとってまさに追い風です。

 この他、「全国の酪農家の子牛を預かり代理で育て、お産をする2カ月前にお返ししますよ」という子牛の保育園ビジネス(年商4〜5億円)、家畜の糞尿を利用したバイオマス発電、太陽光発電、木質バイオマス発電、牛乳とワイン…。いずれも、葛巻が天から与えられた自然資源を活用したものです。

 牛乳はタカナシ乳業と組み、「岩手県葛巻町の産地限定牛乳」としてブランド化を果たしています。また、葛巻の保育園で育った牛は農林大臣賞をはじめ数々のコンテストで栄冠に輝いているので、「ブランド牛を育てるなら葛巻」という、名門保育園になっているようです


ローカルにしかできないことを

 数々の施策を打った結果、07年現在、葛巻町の財政は年間6千万円近い黒字を出し、さらに毎年6億円ずつ借金を減らしています。葛巻町の第三セクターは年間17億円以上の収益をはじきだしています。さらに、これらの実績を耳にして、年間50万人が視察に町を訪れます。

 乳牛の乳搾りや山ぶどうの収穫、炭焼き、伝統工芸体験(つる細工等)、自然体験(山菜取り等)、様々なメニューを用意しています。

 この事例から学ぶべきは、第1に、「マイナスをプラスに転ずる企画力」です。「○○がない、○○があれば」と「ないものねだり」するのではなく、「いまあるものに、違う角度から光を当て、活用する」。ゼロから出発するのは企画力の原点です。

 そして第2に、「ローカルに徹する」。中村町長の言葉が印象的です。「都会の人は都会にしかできないことを、地方は地方にしかできないことを」。環境の見地からも、この言葉は卓見です。

 皆さんも、ローカル・ビジネスの「地域ならではの要素を活かし、地域と共に繁栄しなければ、企業単体の繁栄はあり得ない」という根本思想を自社にあてはめ検討し、活用してみてはいかがでしょう。

(2007年9月1日号掲載)