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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

71)おもてなしの心

マーケティング講座

こんにちは! 阪本啓一です。
日本人ならではの強みを生かした
ビジネスチャンスの発見をしてみましょう。
それは、「ホスピタリティ、おもてなしの心」です。


貧しいアメリカのサービス品質

 「おもてなしの心」にあたる英単語はhospitalityですが、日本と比較した場合、アメリカ現場のサービス品質の貧しさは哀しいほどです。まず、電話に出る時の愛想のなさ。「○○○○」と、社名だけを言ってあとは黙っている。呼び出してほしい人の名前を告げると「hold on」。慣れるまでは「不機嫌なやっちゃなあ」と思ったものです(笑)。ところがかける先々でみんなが「不機嫌」なものだから、「そういうものなのだ」と学習しました。何も不機嫌な人をわざわざ選んで電話窓口にしているわけではないと(笑)。

 一方、某カード会社のプラチナ会員専用窓口に電話すると、「ここは天国か」と思うほどの丁寧な対応をしてくれます(笑)。ところが同じカード会社でもゴールドになると、ガクン、とレベルが落ちます。ゴールドよりプラチナ、金次第、というわけです。

 いずれにせよ、アメリカのサービス品質、「おもてなしの心」は、日本市場と比較したとき、とんでもなく低いと言わざるを得ません。


スーツの沙汰も金次第

 ある日本人ホテルマンが、シンガポールのホテルから、ニューヨークのプラザへ転職しました。熱帯地方から厳しい寒さのニューヨークに移ったため、冬用のスーツやコートがない。早速買い出しに、高級デパート「サックス・フィフス・アベニュー」へ向かいました。

 紳士服売り場で目の合った店員が接客してくれます。選んだスーツを手に、試着室へ。その段階で、「すそ直し」には2週間かかると言われ、そうか、ここはアメリカ、時間かかるんだ、と彼はあらためて自分のいる場所を認識しました。たちどころに4着スーツを選び、ついでに革靴も4足。「次はコート」、この段階で既に店員は目を丸くしています。コート売り場へは先頭きって猛然とダッシュし、何かと丁寧に接客してくれます。バーバリーを2着お買い上げ。もはやここまで来ると、ジャケットを広げて羽織らせてくれるまでに。支払いを済ませ、お届け先としてプラザの住所を記入すると、「すぐ、お届けします!」(笑)。「『すぐ』と言ってもまあ、アメリカのことだし、2週間と言っていたから…」。

 ぶらぶらとウィンドウ・ショッピングを済ませ、社宅として提供されているホテルの部屋に戻る。電話の赤ランプが点滅しています。電話交換手に確認すると、本当に「すぐに」商品が届けられていた!

 この事例は94年から2005年までプラザホテルにマネージャーとして勤務した奥谷啓介氏の実体験です(*)。スーツ4着、靴4足、コート2着、しかも、住まいはプラザ! とてつもない大富豪をつかんだ、と店員は思ったに違いありません。しかしこのサービスの良さは要するに「札束」への笑顔に過ぎないわけで、日本式のお客様第一主義とは違います。


日本式おもてなしの心

 日本ではたった100円の商品1つを買っても笑顔で接客してくれます。遠い昔から綿々と続く商いの伝統がなせるのでしょうか。それとも日本人のDNAに「おもてなし」が入っているからでしょうか。アメリカにお住まいの皆さんの強みは、「日本のおもてなしの心」を、アタマではなく、腹で理解していることです。もちろん、アメリカの労働環境は日本とは全く違います。ホテルを例にとっても、確固たる分業制で運営されていますから、部屋の電球が切れていたとしても、客室清掃係は交換できません。電球の交換は営繕係の仕事であり、清掃係の関知するところではないからです。

 日本人ゲストがアメリカの高級ホテルに宿泊して不満を感じる点はまさにここにあります。日本の高級ホテルなら館内にいる適当なスタッフに声をかければ、一気通貫に話が通ります。極端な話、ベルマンに洗濯物を託しても、きちんとランドリーに回してもらえます。しかし、アメリカのホテルでは無視されるか、良くて後回し。背景には、分業制というシステムに加えて、徹底した個人主義があります。しかし、この、「アメリカでは当たり前」という状態こそ、チャンスだと思いませんか? 


当たり前を、しっかりと

 「おもてなしの心」を軸にして、何か現状のサービスに風穴を開けることができないでしょうか。当たり前のことを当たり前にやる。人種を問わず、教育すれば可能なはず。現に、日本のレストランチェーンで、アメリカに進出し、日本式の朝礼を導入して顧客サービス・マインドを徹底的に教えた結果、日本の「本体」よりも業績を向上させた会社を知っています。ポイントは、当たり前をしっかりと。
大きなビジネスチャンスが待っています!

*参考:奥谷啓介『プラザでの10年間』(07年小学館発刊)P.135-138

(2007年11月1日号掲載)