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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

83)素顔から見えるビジネスチャンス

マーケティング講座

こんにちは! 阪本啓一です。
意外なところにビジネスチャンスの可能性がありました。


徹夜の引越し

 Aさんは、京都に店舗付住宅を持っていて、人に貸していました。その物件は1階が店舗、2、3階が住居として使えます。店子は60代のBさんご夫婦、1階でカラオケスナックを経営、上階を住居として使っていました。ところが…。経営が傾き、家賃も払えず、毎月値切ってくる有様。どうしようもないので、店をたたみ、Bさんは出て行くことになりました。

 次の入居者も決まり、Aさんは店の改装工事の計画を決め、施工会社と契約、4月1日が工事なので、前日3月31日(契約期限)には荷物を整理して退去してくださいね、とBさんにお願いしていました。ところが、いざ31日に行ってみると、Bさんは荷物に全く何の手もつけていない。Aさんが気づいたのが夕方、一緒に荷造りを始めて、終了したのが朝の6時。Bさん夫妻は床に寝てしまい、朝8時には工事の職人さんがやってくるので、気が気でないAさん1人で荷造りを夜通しやったということです。大家さんが引越しの荷造りをするというのも、すごいですね(笑)。

 Aさん曰く、「あるわあるわ、次から次に要らないモノ、こんなん、一体いつ誰が使うねんというモノが次から次に出てくるのです。Bさん、商売やってるのに、日頃からお金ない、お金ない、とぼやいている理由がわかりました。要らないモノを夜のテレビ通販でどっさり買い込んでいたのです」。


素顔の生活

 ここで終わらないところが敏腕マーケターAさん。気づいた点が2つある、と言います。 

 第1に、テレビ通販の商品は、このBさんの買い物のように、「あってもなくてもいい」ものが大半であること。それを、「残り商品数あと○○個!」というような「煽る」プロモーションをして顧客を焦らせ、電話注文に導く、いわゆる「煽りマーケティング」によって販売されていることが多い、という点。

 たしかに、アメリカや日本のような生活インフラが整い、治安も安定している国に住んでいる限り、「生きていくのに絶対必要不可欠な商品」は簡単に手に入ります。誤解を恐れずに言うなら、企業が生み出し、販売しようとしている製品・サービスは、「あってもなくてもいいもの」と言われてみれば、その通りです。だからこそ、製品開発者の腕の見せ所であり、マーケティング担当者が頭を絞らなければなりません。本当に必要な、より良いものを世に出し続けていくために。

 第2に、引越しの荷物は、そこに住む家族の素顔の生活が出る、という点。そしてこの点が今日のテーマにつながります。


荷物はウソをつかない

 荷物は見栄を張ることができません。ありのままの素顔の生活が出ます。Aさんは、Bさんの日頃の生活「そのもの」を見ることができた(希望したわけでは決してないのですが、やむなく)、と言っています。ここにAさんはビジネスチャンスを発見したのです。引越し会社は、実は、社会の素顔のライフスタイルを観察する最高のビジネスではないか、と。統計数字や、消費動向指数ではなく、家の中にどんなものがあるか。それを観察・記録していくだけで、ほんものの、ウソのないライフスタイルの事実(facts)が手に入る。つまり、「引越しマーケティング・リサーチ」という分野が成立するのではないか。

 以前、缶チューハイ・マーケティングの仕事で、プロジェクトメンバーと、該当エリアのゴミステーションを片っ端から写真に撮り、ゴミ袋を集めたことがあります。

 スーパーやコンビニの棚で何がどれだけ売れたか、というPOS(販売時点)データは簡単に手に入ります。一方、ゴミは、ウソをつかない、ありのままの「消費」を示してくれます。この両方のデータを手にすることで、「消費の素顔」をつかむことができたのでした。ゴミステーションエリアの住民の人口構成と、ゴミの相関関係を見ることができたのです。結果は、予想通り、比較的若い世代の住むエリアではRTDと呼ばれる、缶入り低アルコール飲料と発泡酒の缶が多かった。年配の多いエリアでは缶ゴミは殆ど出ませんでした。


いかに事実に肉薄するか

 マーケティング・プランの立案に1番重要なことは、「事実」です。数字ではなく、事実にいかにして肉薄するか、がプランの成否に大きく影響します。引越し会社のマーケティング・リサーチのアイデア、どこかの会社が現実にやってくれないものか、と考えています。