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ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

84)数字を貼り付ける

マーケティング講座

こんにちは! 阪本啓一です。
すべての企画の裏には数字がついてまわります。


猿之助が深夜稽古を避けた理由

 市川猿之助(当代の三代目)さんを尊敬しています。歌舞伎という古典芸能の世界にいながら、スーパー歌舞伎を創出し、歌舞伎に新しい芸術性を生み出した才能は稀有です。スーパー歌舞伎は、衣装、美術、舞台技術、照明、音楽など、すべてにおいて古典的歌舞伎と一線を画し、例えば脚本に哲学者・梅原猛氏や小劇場系の出身、横内謙介氏を起用するなど、常に新しい才能とのハイブリッド(異種混交)を試み、同時に商業的にも成功を収めています。

 猿之助さんのクリエーターとしての才能はもちろんですが、私が「すごい!」と学ぼうとしているのは、氏の、「すべての企画の裏に数字を貼り付ける発想」です。著作(『スーパー歌舞伎』集英社新書)にこんな一節があります。「経費の面で好ましくない深夜稽古(200人近いスタッフ・キャストをタクシー送りにすると200万円かかってしまう)も最小限に抑えて」

 確かにそうですね。振り返ると私は、ラスベガスやブロードウェイのショーを観ても、この「経費の発想」が薄かった。原作著作権料、俳優のギャラといった「わかりやすい経費」については頭がめぐっても、リハーサルにもしっかりお金がかかっているのだ、という当たり前の発想がなかったのです。前置きが長くなりましたが、今日は、「企画に数字を貼り付ける」ことをお話します。


値引いても10%売上を上げればOK?

 質問です。あなたの商品(製品・サービス)の単価を10%値引いたとします。さて、値引き前と同じ利益を得るためには、売上をどれだけ上げなければならないでしょう。「そりゃ簡単だよ。10%引いたんだから、10%増やせばいいじゃん」そう考えがちですよね? 正解は、そんな単純ではないのです。

 売上は単価(P)×量(Q)の積。仮に値下げ前の単価を1千円(P)、販売量を1500個(Q)とすると、売上はP(1千円)×Q(1500個)=150万円。Pに0.9、Qに1.1を掛けてみると、P(900円)×Q(1650個)=148万5千円、つまり、売上は99%になってしまいます。これは0.9×1.1=0・99という計算式でも出る解です。さらに、販売量に比例して変動費も増えます。その分、限界利益(売上から変動費を差し引いた金額)が下がるのです。

 会計上の説明は紙幅の都合上省略しますが、売上に対する変動費比率が60%の場合、10%の値引きをカバーするための販売量は33.3%、仮に20%値引いた場合は2倍の販売量を確保してようやく値下げ前とトントンの利益なのです!

 通常、値引きは、価格を安くして販売量をふやす目的で実施しますが、同等の利益を確保するためには相当量の販売増が必要、ということがこのシミュレーションでわかりますよね?当然ですが、値下げ作戦も、目をつむってエイヤッではなく、数字の裏づけのもとに実施しましょう。


ブランドへの説得力も数字で

 あるアパレルの販売店の事例です。1つのブランド・ネームのもと、何種類かあるサブ・ブランド服を販売しています。5種類あるサブ・ブランドの服1点ずつについて、何月何日に何着売れたのか、すべて表に記録しました。そのデータをブランド・デザイナーに見せながら、次の販売計画を話すようにしたのです。デザイナーは感性、右脳の人ですが、手元に数字の羅列=事実を置いて、顧客と直に接触している販売店担当者と話すことで、互いに共通言語を持つことができ、非常に前向きな商談が進んだ、とのことです。

 普段やらない光の当て方を自分のブランドに対してすることで、デザイナーもとても喜んでくれたそうです。


「すべての企画の裏に数字」のクセを

 弊社ではセミナーを企画するとき、必ず、損益分岐集客人数をつかむようにしています。「14人目からは利益が出るね」といった数字をメンバーで共有するのです。企画規模の小さい、大きいに関係なく、社内文化にしています。これによって、商売のセンスが身についていく、と信じています。顧客への話も、数字をもとにしていると、説得力が違ってきます。おおまかで構いません。不明な部分は仮の数字を当てはめていても。しかし、「すべての企画に数字の裏づけを」は、是非、全員のクセとしましょう。

参考:田中靖浩『儲けるための会計』
   日本経済新聞社