働く
JOB

アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

108)シャボン玉遊戯

マーケティング講座

 『シャボン玉の中へは庭は這入れません まはりをくるくる廻ってゐます』
 これはジャン・コクトーの詩を堀口大學先生が翻訳されたものです。今日のテーマに関連するので、冒頭に引用しました。


ダニーの世界

唐突ですが、ダニには世界がどのように見えているのでしょうか。ダニは目も見えず、耳も聞こえません。ただジーッと、木の枝かどこかに潜んでいて、下を体温のある動物が通りかかるのを待っているのです。記録によれば、15年間何も食べずに待っていたダニ君もいたそうです。ここにダニのダニー君(笑)が桜の木の枝で待っているとします。ダニーにとってラッキーなことに、下をヒトが通りかかったようです。ヒトの発する酪酸のにおいがそれを知らせてくれました。ダニーの行動は次のように3つのステップを経てなされます。

STEP1:ヒトの酪酸の「においを知覚」し、ダニーは「落下」します。
STEP2:ダニー、ナイス! 見事にヒトの腕の上に着地成功。ダニーは目が見えませんから、「衝撃」でその事実を知ります。ヒトは「ん? 何かかゆいかも」と、(ダニーにとっての衝撃を)「触覚」で感じます。
STEP3:ダニーは着地点が「温かい」ことを感じ、この作戦の成功を確信します(不幸なことに冷たい何かの上に落ちたときは、作戦失敗。次の機会を待ちます)。

安心して、頭からヒトの皮膚の中へもぐりこみ、血のごちそうをいただく、というわけです。ダニーに味覚はありませんから、温かい液体を飲んでいる、という感触しかありませんが。


環世界というコンセプト

ダニーにとって、この世界は人間の認識している世界とは全く違うもののようです。酪酸の有無が世界のすべてを作っています。非常にシンプルで、だからこそ、ダニーの世界は非常に確立されており、わかりやすく、ダニーには「青春の悩み」など存在しないことでしょう。これを環世界と呼びます。

同じく、海の底で暮らすウニの世界は、太陽光線がはっきり射してくるか否かで形成されています。ウニ君にとって、太陽の光を遮るものは、それが魚であれ、船であれ、雲であれ、等しいのです。関係ありません。だから、人間にある「あれは船であって、雲じゃない。雲は魚ではない」といった「区別」は、ウニ君にはないのです。ウニ君は棘を持っていて、外から突っつかれたら棘を出して応戦します。反射作用です。しかし、自分から棘を突きだして何かいたずらをすることはありません。ウニ君にとって運動とは、「反射」でしかないのです。
 
イヌでも猫でも、動物が足を動かしますが、ウニの場合、足(棘)がウニを動かすのです。ウニの環世界は光と陰り、外からの突っ込みがあるかないか、で成立しています。
 
つまり、世界は、私たち人間の世界がすべてではない。生物の数だけ、世界(環世界)が存在している。まるでシャボン玉のように、生物を囲んでいるのが、環世界。そしてこのことは、人間にも言えるのです。


大阪人と東京人の環世界は違う?

 私は大阪出身なので、「東京」と聞くと、神奈川に長く住んだ現在であっても未だに「右にある街」と連想します。東京都内在住の人(岐阜県生まれ都内育ち)に聞いても「右」のイメージがあるといいます。
 鳥取の人に大阪について聞くと「日本海を背にして見るイメージ」という返答がありました。横浜出身の人に大阪を聞くと「下」といいます。「地図上で何となく下のほうにあった感じ」だからだそうです。札幌の人に東京のイメージを聞くと、「ロシアを背負って、日本列島をタテに見、左側にあるイメージ」といいます。つまり、同じ日本人でも、環世界はこうも違っているのです。


ブランドは心理学

 ブランドは心理学です。コガモが最初に見た生物を、それがカモであれヒトであれ親と思うように、ブランドが最初に生活者のマインドに刷り込んだ「印象」がそのブランドが作り出した「ブランドの環世界」になります。とすると、「ブランドづくり」とは「環世界づくり」と言っても過言ではありません。
 ブランドネーム、シンボルカラー、ロゴ、プライシング、販売拠点(立地、販売員のスキル、店舗の雰囲気づくり)などの統合的な印象の積み重ねで、環世界ができあがります。たとえばスターバックスなら、世界中どこへ行ってもあの緑のマークとブラウンの内装、そしてコーヒーの香りが「スタバ環世界」です。
 今日は生物学の知識をブランドづくりに取り入れてみました。