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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

118) 無から有を生み出す

マーケティング講座

こんにちは! 阪本啓一です。
商いはゼロからの出発です。


派遣切りに遭って

長谷川裕也さんは派遣社員で働いていた
23歳の時、いわゆる「派遣切り」で失業しました。女手一つで育ててくれた母親に頼るわけにはいかない。自分で何とか稼がねば。ポケットには5千円。百円ショップに行って、風呂場用の椅子二脚と靴磨きセットを購入、JR東京駅丸の内口前に陣取り、靴磨きを始めました。一人五百円、初日売上げ七千円。翌2005年には品川駅へ移動、いろんな障壁(同業者の嫌がらせ、警察の取り締まりなど)にぶつかりながらも、継続しました。腕を磨くため、客になりすましてベテランの靴磨きの技を盗み、また、墨田区の都立皮革技術センターの研修を受けました。靴磨きの面白さにのめりこんでいきます。そしてついに靴磨きで会社を起業。手元資金百万円、それも融資で得たお金です。午前中は友人のつてを頼って企業に出張、社員が会議中にまとめて磨きます。午後は夜8時まで駅前で仕事に精出し、帰宅後は宅配便で送られてくる靴の修理と手入れをします。合間をぬってイベントや講演会へ。こうして働いて、働いて、働いた結果、念願の自分の店を持つまでに。それも青山という一等地、「靴磨きは芸術」「日本の足元に革命を」という哲学を掲げて。

「青山の次は銀座、さらにはニューヨーク、ミラノ、パリ、ロンドン」と夢がふくらみますが、これこそが起業家の醍醐味でしょう。長谷川さんの物語は、商人の原点を思い起こさせてくれます。それは、「無から有を生み出す」です。



無から有

私は、起業しようとする人、あるいは、新商品プロジェクトのコンサルテーションをする時、「商売は見えないATMからお金を引き出すようなものだ」という話をします。また、「渋谷のスクランブル交差点に立ったとして、周囲にいるたくさんの人から、一人千円ずつもらうとしたら、何をするか、何ができるか、常に考える思考実験をしていなさい」という話もします。「電車には座るな。電車の乗客から一人千円もらうためには何をするか、いつも考えていよう」という呼びかけをすることもあります。いずれも、私が日頃から実行している思考実験です。要するに、何もないところ(無)からいかにしてお金を頂戴できる商売を生み出す(有)ことができるか。



チャリン、チャリン

福岡市のトーマス株式会社は無人の駐輪システム「チャリロック」を開発、販売しています。自転車の前輪をロックするシステムで、1時間までは無料、その後12時間単位で百円ずつ課金されていきます。PHSが設置されていて、本社サーバーとつながっているので、駐輪してある自転車すべてを本社にいながらノートパソコン画面で状況把握、管理できます。このため、コインを入れたのにロックが外れないなどの思わぬトラブルがあったときも、顧客から電話を受けるとすぐPC画面で確認、その場でリモートコントロールで解除することができま
す。「1時間までは無料」という点もミソでして、これまでよくある有料駐輪場の課金システムは「とめたらすぐに課金」「いくらとめておいても一日いくらの一定額」でした。だから、何日も放りっぱなしの放置自転車が出てきたりしたのです。「最初の1時間は無料」により心理バリアが外れ、ついついとめてしまう。しかし、人間、そううまく動けるものではなく、つい1時間を超えてしまう。それでもわずか百円ですから、抵抗は少ない。そこに、福岡市が放置自転車を許さない条例を公布、放置禁止区域を指定(08年4月1日現在、38地区)、多くの人の出入りが見込まれる公共施設(駅、大規模商業施設など)には駐輪場の設置が義務づけられました。これも追い風となって、チャリロックの売上は03年二百万円だったのが、08年は1億5千万円にまで成長したのです。しかも、チャリロックは一度設置すれば、あとは無人でチャリン、チャリン、と半永久的にコインを稼いでくれます。



「無くなると困る」へ

「無から有」ですから、始めはその必要性に確信が持てないかもしれません。でも、「無くなると困る!」とお客様から熱いラブコールを戴けるようになること、これこそが商売の楽しさではないでしょうか。参考『WEDGE』2009年4月号P




(2009年5月16日号掲載)