日本はマスク依存症を克服できるか?

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

(2022年7月1日号掲載)

外国人観光客と日本人のマスクへのギャップ

冷泉コラム_日本・浅草

日本の外国人旅行客は、まずは旅程が把握しやすい添乗員付きの団体旅行のみ受け入れを始めた。

2年半ぶりに日本に一時帰国する機会があった。5月下旬であったので、すでに強制隔離も自主隔離もなく、検疫プロセスに時間がかかった以外、出入国は比較的スムーズだった。久々の日本だったが、通勤電車は相変わらず混雑しており、街は人であふれていた。東京をベースに仕事で大阪との往復も経験したが、新幹線も平日でありながら7割程度の乗車率があり、人の動きも回復しているようだった。
 
だが、アメリカと比較すると、依然として日本社会の雰囲気は全く異なっている。相変わらずマスクの着用率はほぼ100%となっているからだ。これは小売店などの店内や、公共交通機関の車内だけでなく、屋外でも変わらない。河川敷などで散歩をしている人の中には外している人もいたが、他人とすれ違う際には急いでマスクを着ける姿を何度も目撃した。例外はジョギングをしている人ぐらいだが、マスクなしで走っている人に対しては、他の人たちは明らかに距離を置くなど敬遠する姿勢を示していた。
 
そんな中で、6月10日からの外国人観光客の受け入れ再開にあたり、マスク着用の習慣があまりない外国人が入国することへの懸念はさまざまに議論されてきた。例えば、5月27日には岸田総理が国会答弁の中で、外国人のツアー客に対しては「添乗員が日本のマスク着用ルールを徹底させ、破られた場合は、国土交通省がしっかりと指導する」と述べている。国内向けには、一斉着用を緩めるべきだというメッセージを政府が出している中で、総理の発言は矛盾しているとか、日本人向けと外国人向けで対応を変えるのは差別だという指摘もあった。
 
けれども、政府としては、マスク依存が行き過ぎている日本人に対しては、「屋外では着用義務はない」というメッセージを出して、常識的な対応へ寄せるようにしているだけだ。同じように、保守州に住むアメリカ人のように、着用を拒むような外国人観光客に対しては、厳しいメッセージを出してちょうど良いということなのだろう。全体としては、矛盾ではあるものの現実的なメッセージの出し方であり、少なくとも差別ではないと考えられる。
 
考えてみれば、わざわざ日本を旅行先に選ぶ外国人は、日本の文化や価値観への理解や尊敬心は強く持っているはずだ。したがって、アメリカ国内のように暴力に訴えてでもマスク着用の強制を拒むようなことはないだろう。また、外国人に対して「マスク警察」のような態度を取る日本人も少ないと思われる。こうした点で、日本政府の懸念はやや行き過ぎだろう。

政府に推奨されてもやめられないマスク

その一方で、日本社会としてマスク依存からどう脱するのかは、もっと深刻な問題に思える。具体的には、5月23日には政府から「特に屋外での、他者と身体的距離の確保されているような場面、あるいは身体的距離が確保できなくても会話をほとんど行わない場面では、マスクの着用の必要はない」という考え方が示された。
 
深刻なのは学校現場だ。猛暑の季節を迎える中で、屋外活動に際してマスク着用を強いることは、熱中症の危険に直結する。昨年は、地域社会や保護者の厳しい目もあって、なかなか「脱マスク」に踏み切れなかったわけだが、今年はプール指導や運動会などがノーマルに戻りつつある中で、着用義務を緩める必要があるというわけだ。
 
だが、政府がそのようにマスク着用の緩和を訴え、特に熱中症の危険を指摘しているにもかかわらず、学校や地域社会の現場では着用緩和が進んでいない。「絶対にマスク着用」という暗黙の掟に2年以上縛られた結果、「マスクが下着のように思われて、素顔を見せるのは恥ずかしい」という感覚や、
「マスクを外すと、見知らぬ高齢者から罵声を浴びないか」という不安などから、政府に言われても外せないという人が多いようだ。この状況からどう脱してゆくのか、同様の事例を抱える中国や台湾、韓国の事例にも学びながら、日本社会の模索は当面続くだろう。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2022年7月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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