結論が出ない日本でのタクシー論争

ライトハウス電子版アプリ、始めました

冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

(2023年12月号掲載)

ドライバー不足で、日本もライドシェア解禁か?

冷泉コラム_タクシー

日本では、Uberのアプリはライドシェアではなく、タクシーの配車アプリとして普及している。

コロナ禍の期間に団塊世代の引退が進んだことで、日本の運輸業界では人手不足が問題化している。全国の路線バスでは、運転士不足から企業ぐるみの廃業やダイヤの削減などが起きている。より深刻なのがタクシー業界だ。ここ数年で大量の引退が発生したため、タクシードライバーはピーク時の半数以下となった。その結果、全国でタクシーが不足している。極端なのは羽田空港で、増加する外国人観光客に対してタクシーは減り続けており、現在では一日中長蛇の列となっている。
 
これに対して政府は、従来は75歳を定年として運用してきた個人タクシーについて、過疎地では定年を事実上80歳に延長した。これに対して、急速に進んでいるのがライドシェア解禁の議論だ。つまり、Uber、Lyft、Wingzのようなサービスを導入するかという問題だ。例えばUberの場合、アメリカだけでも90万人のドライバーが稼働している。このようなライドシェアは、従来は日本独特の規制から不可能と言われていたが、80歳のドライバーを認めるぐらいなら、解禁しても良いという意見が出てきている。
 
だが、実際には法律や制度の問題が大きな壁となっている。まず、法的にはドライバーの免許について、現在では営業目的での運転には第二種免許が必要だ。その取得には厳しい実技試験を突破する必要がある。営業車の運転には高い技術が必要で、この第二種免許が安全確保の根拠となっている。この問題は世論の関心も高く、普通免許だけのドライバーにライドシェアを認めることへの抵抗感は根強い。
 
さらに、現在の法律では緑ナンバー、つまり営業車は特別な登録が必要だ。例えば1年ごとに車検を受けるなど、緑ナンバーはより厳格な規制がされている。これも安全確保の根拠となっている。保険も全く異なっており、ライドシェアを認める場合は、業態に対応した保険の開発が求められる。その一方で、旅館や幼稚園などの無料の送迎は第二種免許も緑ナンバーも不要ということは、あまり知られていない。
 
別の問題として、ライドシェアのサービスを実現するには、大型のタブレット端末を運転中に操作する必要がある。受注やルートの決定、利用客とのコミュニケーションなど、端末に入っているソフトウェアが各社の重要なノウハウである。だが、日本の法律では運転中の端末操作は違法であり、例外は認められない。最悪の場合、ドライバーは逮捕されてしまうので、この問題も法改正が必要だ。

ユーザーと業界が阻むライドシェアの普及

では、ライドシェアを解禁すべきだという声が高まっているのかというと、実際に世論の動向を調べると意外なことに規制緩和反対の声が大きい。法人タクシーの場合は企業が責任を取ってくれるし、個人タクシーの場合は経験年数が長いということで安心感がある。これに対して、ライドシェアは信頼が置けないというのだ。また、海外のタクシードライバーはサービスが悪いからライドシェアが成立するが、日本のタクシーは信頼度が高いのでライドシェアは不要だという議論がかなり賛同を得ている。
 
これに加えて、当然のことながら既存のタクシー業界には規制緩和への強い反対論がある。タクシーの車両には、自動ドア、運賃メーター、無線機器、運転記録機器など特別な機材の投資が必要であり、簡単に自家用車とタブレットで営業されては対抗できないという危機感もあるようだ。また、無線配車の要員、整備士、事務員などの雇用を守りたいという問題もある。というわけで、現時点ではライドシェア解禁への賛同は必ずしも多数派ではない。だが、その結果として、全国でタクシーの稼働台数が半減し、さらに減り続けていけば社会が崩壊してしまう。
 
例えばだが、小型車普通車の第二種免許は簡素化する代わりにライドシェアにも要求する、その前に全国のタクシー料金を値上げして処遇を改善し、人材を集めるなど緊急の対策も必要ではないだろうか。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中
※このページは「ライトハウス・カリフォルニア版 2023年12月」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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