ガラパゴス化する日本の美容事情

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

全ては美白美肌のため日本独自の習慣や行動

冷泉コラム_日傘

日傘の使用率が高いのも日本ならでは。

美容に関する考え方というのは、その国の文化や生活習慣に関係する。従って、国や地域によって千差万別となる。例えば女性の美容整形に関する考え方は、同じ東アジアでも日本・中国・韓国で全く違う。アメリカの場合はもっと違うし多様だ。そんな中で近年の日本では美容に対する考え方が、独自の方向性に入ってきており、それが進んでいるように見える。
 
まず気になるのが日焼けへの強い抵抗感だ。日焼けが皮膚ガンの原因となったり、肌の老化を進めたりすることは広く知られている。従って日焼け防止の対策をするというのは理解できるのだが、日本の場合は徹底の度合いが半端ではない。
 
まず女性の場合は、ほとんど日焼けはタブー視されている。そのために、黒い日傘をさしたり、UV加工をした夏の長袖やアームカバー、マスクの着用など徹底した対策をするのが一般的となっている。最近では、曇りや雨の日でも紫外線量はゼロではないとして、晴れた日同様に徹底した対策をするケースも出てきた。
 
行動パターンとしても、高級ホテルがナイトプール・サービスを行うなど、プールに入るのは夜間にしたり、海水浴が不人気になったりするなど大きな変化がある。また、日焼け止めクリームについては、高品質のものがどんどん開発され、アメリカよりも高い普及率となっている。日本の学校では校則で日焼け止めの使用を禁止することもあったが、それも見直す方向になりつつあるという。
 
日焼けがタブーになっている原因としては、肌の老化や皮膚ガンを防止したいという理由が大きいようだが、現在では日本社会全体に日焼けはタブーという一種の同調圧力が働いており、徹底した日焼け防止行動を後押ししている。その結果、生まれつきの肌の色を「脱色したほうがいい」というような明らかな差別発言がお笑いイベントで飛び出すなど、行き過ぎた社会現象も起きた。
 
もう一つ、美容の問題では、近年、男性のムダ毛処理、とりわけヒゲの脱毛が大流行している。直接の原因としては、毎朝の髭剃りが面倒だという答えが多いようだが、もっと深刻な理由として女性が男性のヒゲを嫌っていることがあるらしい。
 
その結果として、ヒゲを脱毛し、日焼け対策を十分に施した「美白男子」が評価されるというのが現在のトレンドであるという。男性が男性らしくという価値観は消えてしまって、「カワイイ男の子」というカテゴリに入る男性が女性には好まれる、ならば積極的に美白プラス脱毛を行なった「美白男子」を目指そうというのだ。

徹底した美白、美肌を目指すその深層心理とは

こうした傾向だが、その深層には2つの心理が指摘できる。1つは温暖化の進行により、日本の春から秋の季節が亜熱帯化しているということだ。欧米の高緯度地方では、冬の日照が少ないことから、夏の間に日光を浴びる習慣があり、それが日焼けを許容する文化となっている。サンオイルなどの存在も、そのためだ。だが、現代の日本で日焼けは暑苦しい感じを与えて、猛暑で疲れた社会には受け入れがたいということなのだろうし、男性のヒゲも同じように暑苦しさが嫌われているようだ。
 
もう1つは、高齢化の進展により加齢の苦しさが若者を含む多くの日本人にとって共通の不安感になっているということがある。その結果として、シミやシワの原因となる日焼けは徹底的に排除したいし、高齢者の正反対である赤ちゃんのようなスベスベの肌に憧れる心理が生まれるらしい。
 
日焼けのタブーも、ヒゲのタブーも、単なる草食化というだけでなく、日本独自の社会的な要因が生み出したものと見る必要がありそうだ。そうはいっても、そうした傾向が日本的な同調圧力によって過剰なまでのプレッシャーになるというのは考えものだ。少し肩の力を抜いたほうが猛暑対策になると考えるのだが、どうだろうか。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

 

(2019年11月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2019年11月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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