EVシフトの遅れが気になる日本の自動車産業

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

世界各国におけるEV事情とは

EVシフト

カリフォルニア州では、2018年からZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル=排出ガスゼロ車)規制が本格化する。50年までにZEV車を100%にすることを目標として、毎年販売台数に占めるZEV車の比率目標を引き上げていくというもので、違反したメーカーには罰金が科せられる。
 
このZEVだが、定義はかなり厳格で、EV(電気自動車)は認められるが、現在エコカーの主流を占めているハイブリッド(モーターとエンジンの切り替え式)車は認められない。いくら省エネでも、エネルギー源がガソリンではダメなのだ。ちなみに、トヨタのプリウスのようなPHV(プラグイン・ハイブリッド車)、つまりガソリンでも走るし、充電も可能なタイプは一応ZEVとして認められるようだ。
 
このZEV規制だが、カリフォリニア州が主導して、オレゴンやアリゾナ、ニューメキシコなどの西部だけでなく、東部のコネチカット、メイン、メリーランド、マサチューセッツ、ニュージャージー、ニューヨーク、ロードアイランド、バーモントなどの各州も追随する構えだ。20年までにEV登録数5万台を目指すワシントン州のように、具体的な数値目標を掲げている州もある。
 
ヨーロッパに目を向けると、イギリスやフランスなどでは、40年に化石燃料を使う車は禁止するという方針があり、アメリカより厳しい。自動車ということでは、新興市場である中国も、国営新華社通信が9月10日に伝えたところでは、中国工業情報省の次官が、化石燃料車の生産・販売の禁止時期に関する検討に入ったことを明らかにしている。
 
そのように世界の動きがEVへ向かう中で、日本の自動車業界の動きには「鈍さ」を感じざるを得ない。現時点で、日本国内で完全なEVを販売している日本の自動車会社は、日産(リーフ)と、三菱(ミーブ)ぐらいであり、トヨタはハイブリッドと水素電池車にエコカー戦略を絞ってきたし、ホンダはEVを開発中とはいえ、まずは中国向けに18年に発売という具合で、遅れが目立っている。

EV普及の先にある日本の自動車産業の未来

では、市場のうちでEV普及のカギを握っているのはどこか?というと、中国が重要だという声が多くなってきた。政府がEV普及に熱心なのは、公害防止のためだけではない。もちろん、深刻な大気汚染を改善したいという意図は背景にはあるが、これに加えて中国がEVの巨大市場になれば、中国系のメーカーが中国市場だけでなく、一気に国際市場でもシェアを奪えるという計算も、そこには感じられる。
 
機械としてのEVの構造は、ガソリン車よりも簡単で、バッテリーや、操縦機構、モーターとギアなど、部分部分を「モジュール化」して切り離し、それぞれを標準化してしまうと、大量生産で思い切りコストを下げることができる。その「標準化」のイニシアチブを取ってしまえば、下手をすると世界の市場を押さえることができてしまう。
 
確かに、EVというのは、電池などの化学製品と、電子機器でできている。そのいずれも、日本は圧倒的な強みを持っている。だが、モジュールの世界標準を中国に取られてしまうと、日本にはそのモジュール製造会社へ部品を供給する下請け産業しか残らないことになる。同時に、化石燃料車の禁止が世界のトレンドとなれば、日本のエンジン技術や排気ガス処理技術などは、過去のテクノロジーとして価値がなくなってしまう。
 
こうした動きに加えて、アメリカのテック系企業各社が取り組んでいる「自動操縦装置」がEVに搭載されていけば、日本企業の出る幕はなくなるし、同時に日本の代表的な産業であった自動車産業は裾野を含めて大きく衰退してしまう危険すらある。
 
例えばトヨタがマツダと提携をしたのも、そうした危機感の表れということが言えるだろう。いずれにしても、日本の自動車産業にとっては正念場と言える状況になってきた。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

 

(2017年10月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2017年10月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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