日本ではどうして都会から小さな政府論が出てくるのか?

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

東名阪の「小さな政府論」 地方の「大きな政府論」

政府論

アメリカの政治風土には、大都会はリベラル、地方は保守という傾向が強い。大都市の場合は世界中から移民が流入するので多様性が生まれるし、富裕層も「アメリカは理想主義の実験場」と考える傾向があるので、福祉政策への理解がある。さらに貧富の格差のある中では、行政サービスへの期待も大きく、それがリベラルな風土につながっている。一方で、中西部などの農業地帯では、開拓時代からの自主独立の気風が残っており、それが政府に頼らないという「小さな政府論」という保守主義につながっている。
 
一方で、日本の政治風土を見ているとアメリカとは全く逆の現象があるようだ。まず、日本の地方では「大きな政府」への期待が強い。反対に、大都市では、特に近年になって「小さな政府論」による地域政党が多く生まれている。
 
この新しい都市型の地域政党としては、まず2008年から09年にかけて、大阪に「大阪維新の会」が生まれている。そして、今度は東京に「都民ファーストの会」が生まれた。両者は、国政への本格的参加を目指しているが依然として全国政党にはなっておらず、都市型の地域政党のままだ。
 
この両者は、いずれも「小さな政府論」を掲げている。大阪維新の場合は、主として公務員や公営企業の人件費を中心とした地域行政のコスト削減が政策の核にある。府市の合併を模索した「大阪都構想」も、府と市の二重行政を解消できればコスト削減効果があるという点が狙いだ。
 
一方で都民ファーストの方は、表面的には魚市場を築地から豊洲に移転するのかという騒動による話題づくりがあったが、政策、あるいはイデオロギーの核にあるのはハコモノへの疑問という観点であり、これも「小さな政府論」である。具体的には魚市場の問題に加えて五輪関連施設の費用を巡る問題で国との駆け引きが行われたことも記憶に新しい。
 
大阪、東京とくれば、次は名古屋だが、ここにあるのも似たような動きだ。09年に就任した河村市長は、議会と対立しながら行政のコストカットを行ったり、市民税の減税を行ったりユニークな市政を行って話題になった。河村市長率いる「減税日本」も考え方としては「小さな政府論」であり、その点では大阪維新や都民ファーストとの共通点がある。
 
大都市で自民党の議員の人気がないのは、地方と同じように「地元」にお金を引っ張ってくる政治姿勢が、「小さな政府」を志向している都市型の有権者に嫌われるからだ。一方で、日本の地方の場合は、例えば「地方創生」というスローガンがそうであるように、衰退した地方の経済を立て直すために、国の支援を求めたり、新幹線や高速道路の誘致を陳情するなど、基本的に「大きな政府論」が中心となっている。

都市と地方 日米の政治的風土の違い

それにしても、日本の場合はどうして都市と地方の政治的風土がアメリカと逆になるのだろうか?大都市は「大きな政府論」で、地方は「小さな政府論」であるアメリカとは何が違うのだろう?
 
一つには、地方の主要産業としての農業の状況の違いがある。アメリカの場合も農業に対する補助金はゼロではないが、基本的に大規模農場が主体だから、それぞれの農場は中規模な企業のようなもので、経済的にも自立している。だが、日本の農業は、政府の補助に頼らないと続けられない構造がある。また、日本の地方では、経済が低迷する中で新幹線や高速道路、あるいは防災工事など公共事業への期待も依然として大きい。
 
一方で、日米の都市のカルチャーの違いだが、日本の場合は格差が広がっているとはいえ、アメリカほどではない。また終身雇用に守られた層は、労働時間も長く、行政サービスを受ける機会も少ないので、とにかく自分の負担している税が「ムダに使われる」ことを嫌うのだろう。日米の政治風土の違いを生んでいる背景には、こうした構造的な違いがある。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

 

(2017年9月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2017年9月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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