日本ではどうして茶色い地毛が許されないのか?

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

日本で髪が茶色いとどのようなことが起こるか?

_茶色い地毛

生まれつきの頭髪、つまり地毛が茶色なのに、学校から黒く染めるよう強要された高校生が不登校に追い込まれて、高校を告訴したニュースが日本で話題になっている。生徒は入学後、頻繁に黒染めを指導され、最後には4日ごとに染めるように強要されたという。度重なる染色で頭皮がかぶれ、髪はボロボロになった生徒が指導に対して抗議すると、教諭から「学校に来る必要はない」と言われ、それ以降は登校していない。
 
この生徒は祖父がアメリカ人のクォーターなのだが、学校は「クォーターは普通黒髪だ」などと暴言を浴びせて髪染めの強要を続けていた。さらに驚いたことに学校側は生徒側の弁護士に「たとえ金髪の外国人留学生でも規則で黒染めさせることになる」とコメントも出している。これは、私立高校ではなく、大阪の府立高校、つまり公立校で起きている問題である。
 
一方で、他の大阪府立高校では、頭髪が生まれつき茶色い生徒に誤って染色を強要しないように、「地毛登録」と称する制度が導入されている。ある府立高では、地毛が茶色の生徒は入学時に髪の色を数値化して登録し、変化が見られなければ許されるという。東京の都立高の中にも「地毛証明書」を提出させたり、証拠として幼少時のカラー写真を求めたりする学校もある。
 
問題の背景には、学習の動機を失った生徒たちの非行の問題がある。日本の大都市圏では、暴力団などが高校生を禁止薬物の乱用や売春行為などに追い込んで利用するなど、さまざまなワナが待ち構えている。そうした転落の道に入らないように、厳しい規律で統制しようという学校は多い。「茶髪」イコール「非行化の兆候」というわけだ。
 
また、近年では世間の目も大きな要素となっている。日本では制服で所属する学校が特定できるので、例えばある高校の生徒が「茶髪だ」となると、インターネットなどで噂となり、近隣から学校に苦情が入ったり、学校の評価が下がったりするというのだ。
 
一方で、地毛が茶色の人は社会人になってからも差別や迫害から逃れられない。成績が優秀で、大手の百貨店に内定した人が「接客業なので髪を黒く染めてください」と強要されて、入社を辞退したという例が報道されていたが、同様の強要は航空会社やレンタカー会社などでもあるという。
 
こうなると人権などあったものではないし、問題になっている府立高校が本当に「留学生にも髪染めを強要」したら国際問題になるだろう。一方で、百貨店や航空会社の場合は、仮に容姿が非アジア系であれば「茶髪でも可」となるかもしれないと考えると、「アジア系にだけ黒髪を強要」していることとなり、これはこれで深刻な人種差別になる。

黒髪強要から見える日本社会と文化

それにしても、近代国家であるはずの日本でどうしてこのような問題が起きるのだろうか?
 
その背景には、社会における「等質性」が強く求められる社会ということがある。高校生や接客業では制服をそろえるだけでなく、10月になると一斉に冬服に衣替えするなど、目に見える「等質性」を大事にする。
 
これに加えて「ウチ」と「ソト」を区別する文化がある。外見が日本人であったり、日本語を話す人間は「ウチ」の人間として扱われるが、その代わり等質性を強く要求される。一方で、「ソト」の人とみなされると例外的に個性が許されるが、組織や集団の正式な構成員とはみなされない文化だ。
 
さらに言えば、「制服を着ていれば高校生」であるとか「茶髪なら不良」というように、外見で人間を決めつける文化があり、その背景には「分かり切ったことはいちいち言語化して確認したくない」という空気のコミュニケーションの問題もある。
 
日本の文化には良いところもたくさんあるが、今回の髪染め強要問題は、その弱点が露出した例として、社会全体が反省をしていくべき問題ではないだろうか。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

(2017年12月1日号掲載)

※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2017年12月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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