ちょっと待ってほしい、異常な「ハーフ美女人気」

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

国際化?内向き?日本のハーフ美女人気

ハーフ美女

日本の芸能界では、ここのところ「ハーフ」や「クォーター」のタレントの人気が加熱している。クリステル、ベッキー、ローラ、ダレノガレ、アリー、トリンドル、クリスティーン…とにかく、そうしたカタカナの名前がバラエティー番組や情報番組にあふれている。この7月の参議院選挙では西日本の全県区で、日米ハーフである30代前半の女性が43万票を集めて当選するなど、政界にも進出が見られる。
 
これは、日本の国際化が進んでいるということなのだろうか?
 
そうではない。むしろ逆であって、日本社会がより国内志向になっていることの表れだと見るべきだろう。それは1980年代の「バイリンギャル」ブームと比較すれば明らかだ。80年代の「バイリンギャル」というのは、山口美江、小牧ユカといった人々や、歌手では早見優、西田ひかるといった顔ぶれだった。彼女らは、ジャーナリストとしてキチンと海外のニュースを紹介していたし、音楽については洋楽のセンスを活かした楽曲を紹介していた。
 
当時の日本社会には明らかに「日本はもっと国際化しなくてはいけない」という雰囲気があったし、「ネイティブ発音は偉そうで虫が好かない」などという駄々っ子のようなことを言う世相はなかった。それから30年近い年月が流れた。今では「バイリンギャル」という言葉は完全に死語になっているし、「元祖バイリンギャル」と言われた山口美江氏は既に他界している。

バイリンギャルとハーフ美女 流行から見る世相

では、現代の「ハーフ美女(?)ブーム」は、何が違うのだろうか?
 
まず、彼女らは「完璧な日本語」を話すことを要求される。外国語が混じってはいけないし、「積極的な自己主張」は禁止されている。その代わり、前述した全員に当てはまるわけではないが、「ワタシ、自信ないんですぅ~」とか「~させていただいて大丈夫ですか?」的な「低姿勢」で「安全」な日本語を話す「キャラ」が要求されるのだ。
 
また、日本人でない方の親や、その母国との関係は、ほとんど話題にしないことになっている。例えば、人気絶頂のモデルでタレントのローラの場合は、父親がバングラデシュ人だが、7月に発生したバングラデシュの首都ダッカにおけるテロ事件の際に、バングラデシュとローラを結びつける論調は皆無だった。また、一昨年発生した父親の関係したスキャンダルに関しては、ローラは「無罪放免」となっている。
 
つまり、80年代の「バイリンギャル」が、日本人が「世界」をのぞく「窓」のような存在であったとしたら、現代の「ハーフ美女」というのは、世界への窓を閉じてしまった日本の中に「囲い込まれた」存在だと言えるだろう。要するに、日本にとっては極めて「内向きのカルチャー」なのである。
 
では、どうして「ハーフ美女」なのだろうか?一つには、日本では「童顔の若い白人女性をありがたがる」という不思議なカルチャーがあるということだ。現在はハリウッドで活躍しているジェニファー・コネリーや、ナオミ・ワッツが人気の出る前は日本でモデルをしていたのは有名だが、とにかく表現力ではなく容姿、人間性ではなく若さを「魅力」と感じる中で、白人女性をありがたがるのだ。
 
もう一つは、「落差」という問題だろう。「ハーフ美女」は一見すると派手で押しが強く見えるが、口を開くと低姿勢のネイティブ日本語を話す、その落差が現代の視聴者には心地良いのである。スキャンダルの出たベッキーがいつまでも非難されるのも、その落差が消えて「やっぱり肉食だった」というショックが逆に働いているからだ。
 
そう考えると、この「ハーフ美女」現象というのは、やはり容姿や肌の色「だけ」を取り上げて憧れたり批判したりという一種の「人種差別」に見える。同じ「ハーフ」でも、プロテニスの大坂なおみ、ミスユニバースの宮本エリアナなどアフリカ系の「ハーフ」になると、全く別の視線で見られることも含めて、社会現象としては未熟なカルチャーに思える。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

 

(2016年8月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2016年8月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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