雅子皇后誕生で期待される「自然な英語」の普及

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

外務省、皇太子さまの発言…これまでの雅子さま

皇居

5月1日には即位の礼が行われる。

2019年4月30日に天皇陛下が退位され、5月1日には皇太子さまが即位される。日本では、新元号の発表時期も決まる中、平成の30年を回顧する動きが進むなど、既に代替わりムードが広がっている。一方で、在米の視点としては帰国子女の代表とも言える皇太子妃雅子さまが皇后になることに特別な意味を感じざるを得ない。
 
雅子さまは、ハーバード大学をご卒業された際に、学部の中で数名だけが選ばれる優等生の称号を与えられるなど、極めて成績優秀であった。その後は東京大学を経て外務省に入省、キャリア外交官として日米半導体交渉などで活躍された。皇太子さまとのご成婚のために退職するまで外務官僚としては6年のキャリアがある。
 
その雅子さまについては、ご成婚後の長期間にわたって適応障害という病気であると発表されていた。また皇太子さまの発言によれば、「国際親善が皇太子妃の大切な役目と思いながらも、外国訪問がなかなか許されなかった」という問題、そして(雅子さまの)「キャリアや人格を否定するような動き」があったという。
 
皇太子さまの発言については、発言のあった 04年以降、さまざまな論議を呼んだ。多くの報道によれば、伝統を重んじる宮内庁の方針と、雅子さまの国際的な発想や行動様式との間には深刻な対立があったようだ。その具体的な点については、当時も発表されなかったし、今後も発表はされないかもしれない。だが、他でもない皇太子さまが「人格を否定」とまで発言されたのであるから、かなり根深い問題だったことが推測される。

雅子さま流の外交が新しい日本の顔に

その雅子さまが皇后になるということの意味合いは大きい。美智子皇后も皇太子妃時代には、お子さまを自分で養育すること自体が「皇室の伝統に合わない」などと激しいバッシングを受けたが、それに耐え、皇后になられてからは天皇陛下とともに自分たちの行動様式を定着された。雅子さまにも同じことが可能であろう。
 
では、キャリア外交官であった実力を発揮して、外国首脳に対して国際情勢に関する意見交換をされたらいいのかというと、それは不可能だ。皇室は日本という国を代表して外交儀礼を行うが、それはあくまで社交や儀礼の範囲である。その枠を越えて、政治経済について議論をされたのでは、象徴天皇制が揺らいでしまう。
 
儀礼や社交ならいいかと言えば、そこにも制約がある。例えば、5月20日過ぎにはトランプ大統領夫妻が即位直後の新天皇皇后両陛下を訪問することになっている。だが、その際にハーバード卒業の誇りにかけて、徹底的に知的な会話を繰り出して、大統領夫妻を圧倒するようなことは適当ではない。社交や儀礼については「どんな相手も立てて日本という国への好感を持ってもらう」ための配慮が何よりも大切だ。その点においては、現在の天皇皇后両陛下が 30年かけて作り上げてこられた社交ノウハウを尊重し、まずはこれに従うべきであろう。
 
その一方で、一つ、雅子新皇后に期待したいのは「自然な英語」である。英語については外務省の歴史に残るほどの名通訳であった雅子さまが、通訳を交えて英語圏の首脳と会話をされるというのは不自然であり、また不適切だ。むしろ、雅子さまが新天皇陛下の誠実な通訳を兼ねて、ご自身は自然な英語のコミュニケーションをされるのが自然だし、それが日本の好感度を高めることになると考える。
 
その際にどのような話し方のスタイルを作るのか、宮内庁としてどうサポートするのかは難しい課題だが、今から即位までに実務的に詰めておくことは決して不可能ではない。
 
また、そのように自然な英語でお話になる姿を国民に見せることも必要だ。それが日本という国をより立派に見せていくことになれば、ネイティブ風の発音は「偉そうに見えてカッコ悪い」などという不要な呪縛から、日本人を解き放つことにもなるからだ。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

 

(2019年2月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2019年2月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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