東京が構想する「国際化」は疑問がいっぱい

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

日本に来る観光客は東京でカジノに行きたいか?

東京の中心部を「外国人が住みやすい特区にしよう」という構想は以前からあった。外資系の企業を誘致しようとか、その場合に「英語で診療が受けられるように外国人医師の医療行為を可能にする」というアイデアなどだ。
 
また、2020年東京五輪の招致が決定してから、同じように「五輪特区」的なアイデアが検討されている。例えば、現在の日本では30日未満の滞在期間で部屋を貸すには「旅館業法」の規制を受けるが、これを外して、五輪観戦に来た外国人が安く宿泊できるようにアパートをシェアすることを可能にするといった構想だ。
 
この種のものは必要な規制緩和だと思うが、最近になって出てきたアイデアの中には、明確に「外国人租界」につながるような発想が見えるものがある。これは要注意だと思う。
 
一つは、「カジノ構想」。この問題に関しては、海外からの出張者や旅行者が増加する中で、「仕事のついでにカジノで遊びたい」とか「異文化探検にも飽きたので、カジノで遊んでスッキリしたい」というニーズがあるだろうという計算から、海外のリゾート運営会社からビジネスとして推進したいという意向が来ているようである。
 
そこへ、「日本人はギャンブル依存症になりやすいから立入禁止にする」という意見が出てきた。これは、ギャンブル依存症の問題が深刻であることから、カジノ構想への反対が大きかったことを受けてのもので、要するに「日本でカジノを解禁するが、あくまで外国人向け」とするということだ。もう少し突っ込んで言えば、日本国内(例えば東京のお台場など)にカジノ特区を作り、そこに国際的なカジノリゾート統合型の運営会社を誘致し、カジノ・ホテル・その他商業施設を併設した「統合型リゾート」を作る。ただ、その場合、「施設で雇用するのは日本人なのに、利用者は外国人に限る」という運用になるわけだ。安倍首相はこの構想に熱心で、シンガポールにある同様の施設を視察してヤル気満々であった。
 
私は、今、世界から日本へ行く観光客は「ホンモノの日本文化」に興味があって行くのであって、こうしたビジネスがどのぐらいニーズがあるのかは疑問だと思う。カジノで遊びたい人はカリブやラスベガスに行くのではないだろうか。

「英語特区」が東京の国際化につながるとは思えない

さらに、政府の周辺からは「英語特区」を設けるという構想も出てきている。日本人や日本企業が海外への情報発信に必要なコミュニケーション力を強化するのが狙いで、特区内の新聞や雑誌は英語になるほか、特区内の企業は、社内共通語を英語にするなど一定の条件を満たせば、税制面での優遇が得られる。また、テレビ局に対しては英語の副音声や字幕対応を促すための助成金制度導入も検討されている。
 
こちらの方は、何とも意味不明な政策だが、要するに「自然に英語でのメッセージ発信ができる企業は少ない」から、税金から補助を出して社内公用語を英語にしたり、翻訳などをさせようというわけだ。税制を優遇してまでやる意味が何なのか、反対に優遇されなければ企業はやらないのか、支離滅裂という感じである。
 
一極集中で繁栄しているように見える東京も、独身人口が急速に高齢化する中で、行政コスト増のために財政破綻するとも言われている。破綻を回避して東京が成長し続けるには国際化は待ったなしだ。
 
そんな中で、いちいち「英語」や「外国人」を「租界」で囲い込むというのは、要するにその他の地域は「日本人と日本語」に限定しよう、外国人は排除しないが、自分たちは一切変わるつもりもないという姿勢に見えるのだ。
 
東京は世界の大都会の中で、英語が最も通じない都市であり、道路の表記も交通機関の案内も外国人には極めて不親切。「租界」や「特区」で囲い込むのではなく、東京全体を国際化していかなければオリンピックの成功も難しいし、人口減や高齢化の中で街は大きく衰退していってしまうだろう。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

 

(2015年6月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2015年6月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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