日米航空路線の「機内サービス」をどうする?

ライトハウス電子版アプリ、始めました

冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

日米の乗客共に内向き志向になっている?

何十年も日米の間を往復してきた私には、この間の日米航空路線の「様変わり」にはいろいろと気になるところがある。まず感じるのは、大型機のジャンボが一部の米系航空会社を除いて退役して、777や787といった省エネ型の機材に変わっていったことだ。これは、スマートな変更であり、歓迎したい動きと言える。
 
一方で、最近顕著なのは、観光にしても出張にしても日本人の乗客は日系航空会社を選択し、米系のフライトでは日本人の乗客が限りなく少数派になっているということだ。
 
1980年代から90年代にかけては、日本人の中でも米系のファンが結構いたし、米系のフライトを利用することが前提になっている「アメリカ行きのグループツアー」なども数多くあった。米系の航空会社の中には、そうしたニーズに応えるために日本語の通訳のできる特別なキャビン・アテンダントを乗せていた時代もある。
 
また2000年代になると、同じアライアンス(世界的な航空会社の提携グループ)の中の航空会社間では、共同運航やジョイント・ベンチャー、つまり日系の航空券で米系に乗れたり(その逆も)、あるいは同じ路線では日系と米系で料金やマイレージ、サービス内容をそろえ、売上も双方で分配するということも定着している。
 
では、そうした工夫をしているにもかかわらず、どうして日本人は日系に固まって、アメリカ人は米系に集中するのだろうか?
 
一つ考えられるのは、日本人もアメリカ人も「内向き志向」になっているということだ。日本人なら機内食には茶ソバがないと寂しい(エコノミー)とか、ドリンクの焼酎のセレクションが楽しみ(ビジネス以上)という要素はあるだろうし、アメリカ人ならダイエットソーダがないと困る(全般)とか、機内食はやっぱりステーキ(ビジネス以上)ということはあるだろう。言葉が通じるかどうかの問題もある。
 
これに加えて、マイレージの制度の問題がある。最近のマイレージのサービスの柱は、基本的に「たくさん乗ると上級会員になれる」という戦略だ。上級会員への一番の売り物は「アップグレード」である。同じエコノミーの料金でも自動的に座席間隔の広い席が指定されたり、場合によってはプレミアム・エコノミーやビジネスにアップグレードされる権利も与えられる。
 
提携先の航空会社ではこうしたアップグレードの特典はあまり適用されない。その結果、日本人はどうしても日系、アメリカ人は米系を選ぶのだ。

日系航空会社はもっと日本人以外の顧客の囲い込みを

では、この傾向はずっと続くのだろうか?必ずしもそうではないという考え方もある。
 
というのは、日本からアメリカへの出張、観光の移動は今後少しずつ縮小していくことが考えられるからだ。アメリカで活躍する日系企業が減ることは考えにくいが、現地採用の比重はどんどん高まるだろう。また、円安傾向が大きく変わることは考えにくいから、日本からの観光客が劇的に増加することも考えにくい。そうした中で、日米間を移動する日本人の数は減っていく可能性が高い。
 
だが、日系航空会社として太平洋路線が重要だということは変わらないだろう。日系としては、その北米市場を維持していく、いや拡大していくことは経営の上で今後も必要になる。
 
ということは、アメリカ人やアジア各国の旅行者を乗客として取り込んでいく必要に迫られるということだ。
 
方法はいくらでもある。例えば日系航空会社の機内食は、洋食のクオリティーも高い。見せ方や説明を加えれば、これはアメリカ人にもアピールするだろう。機内の英語でのコミュニケーションは工夫すべきだろうし、細かな気配りだけでなく毅然としたプロフェッショナリズムを見せる必要もある。いずれにしても、今後、日系航空会社は日本人以外の乗客の囲い込みにマーケティングの比重を移す必要が出てくるということだ。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

 

(2015年1月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2015年1月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

「冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点」のコンテンツ