東京一極集中はなぜ起こってしまうのか?

ライトハウス電子版アプリ、始めました

冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

人口も経済も大学も全てが東京に集中する現状

昨年発表された増田寛也元総務大臣の著書『地方消滅』(中央公論新社)が、日本で大きな話題を呼んだ。全国の地方で過疎高齢化が進むと、市町村の半数が2040年までに「消滅」してしまうというシミュレーションをした内容には説得力があったからだ。
 
増田氏も指摘している通り、問題は東京一極集中にある。だが、この傾向は全く改善される気配がない。政府の発表によれば、東京圏(一都三県)への人口流入は、流出を上回る「流入超過」が19年連続しているという。政府は、20年までに、このトレンドを「流出超過」に持っていこうとしているが、具体的な手段はない。
 
日本の「東京一極集中」は、アメリカと比較してみれば歴然としている。アメリカの場合は、政治の中心はワシントンDCだが、経済の中心はニューヨーク、シカゴ、カリフォルニアと産業別に分散している。近年では、南部の経済発展も著しい。映画はハリウッド、テレビはニューヨークが多いが、ハリウッドにもある。同じテレビでもCNNはジョージアだったりする。自動車はミシガンで、オハイオやケンタッキーにも広がっている。ITはシリコンバレーだが、東海岸にもある。全米最高峰の大学は東海岸とカリフォルニアにあり、シカゴなどの中部にもある。というわけで、一極集中して「いない」ことがアメリカの強みだということは明らかだ。では、どうして日本では東京に集中してしまうのだろうか?
 
一つには、産業への政府の規制が強いということがある。何をするにもいちいち政府の「おうかがい」を立てたり、政府の予算を引っ張ることが重要で、そのためにあらゆる産業が東京に「本社」を置いてしまうのだ。
 
次には、主要な大学が東京に集中しているので、「優秀な人材集め」のためにどうしても東京が大事となり、結果的に転職市場でも東京が有利ということになる。大学生としても「東京にいないと就職活動が不利」だということで、東京の大学に進学する傾向が強い。
 
さらに言えば、日本の仕事の進め方が「メール」ではダメで、基本的にセールスにしても社内の部門間調整にしても「実際に会って話をする」という「対面型コミュニケーション」が主になっているということがある。そのために、金融機関のほとんどは東京に集中しているし、それぞれの業種に関して東京を頂点としたピラミッドができ上がってしまっている。

東京がずっと地方を支えていける保証はない

文化も東京に集中しているが、これにはテレビのキー局が全て東京という事情が大きい。文化ということでは、音楽も、美術も、文学も、出版も、東京が中心となっている。
 
かつては、大阪は「商都」と言われて江戸時代は商業の中心であり、明治以降も昭和の終わりまでは巨大な電機メーカーや都市銀行の本拠が大阪にあった。だが、その勢いも今は東京に呑み込まれてしまっている。大阪で「府と市の統合論議」が起きる背景には、そうした大阪経済の地盤沈下がある。
 
全国を結ぶ航空網や新幹線網が発展したことも、一極集中を加速させた。昭和の時代までは各県庁所在地には高級デパートが存在したが、東京に日帰りが可能になると、地方の富裕層は東京で買い物をするようになり、地方のデパートはほとんどが消滅している。
 
似たような現象は、それぞれの地方で起きており、北海道では札幌一極集中。東北では仙台への集中。そして九州では福岡への集中が進んでおり、その他の地域は衰退が加速している。
 
このまま進めば、過疎高齢化が進む地方のコストを東京が負担していく構造になっていくだろう。だが、東京の繁栄も永遠ではない。東京は全国でも出生率が低く、単身世帯の比率が異常に高い地域でもある。この後、急速に高齢化して、単身の高齢者を多く抱えることになる東京は、経済の牽引車であり続けるとは限らないのだ。一極集中と過疎高齢化の解決策としては、やはり「地方の活性化」しか選択肢はないと考える。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

 

(2015年3月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2015年3月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

「冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点」のコンテンツ