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JOB

アメリカで働く(多様な職業のインタビュー集)

現地情報誌「ライトハウス」が長年に渡り連載してきた人気コラム「アメリカで働く」は、アメリカで働く日本人・日系人、100名以上の皆さんへのインタビュー集。業種も、職種も異なる100名以上の皆さんそれぞれにとっての「アメリカで働く」とは?アメリカでの"キャリア"や"仕事"が見えてきます。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

建築デザインコーディネーター、LEED認定プロフェッショナル
(クリエイティブ系)

濱田香織さん

既存の建物をリノベーションによって
LEED基準に適合させるプロジェクトを手がけてみたい


日本で銀行に就職したが、語学留学で訪れたロサンゼルスで働く夢を捨て切れず再渡米した濱田さん。専門短大でインテリアデザインを専攻し、建築事務所に入社。先輩建築士の仕事を見ながら学び、注目を浴びるLEED(環境性能評価システム)の資格を取得。現在、建築士の資格取得も目指す濱田さんに聞いた。


【プロフィール】はまだ・かおり◉愛媛県松山市出身。地元の短期大学を卒業後、1年間ロサンゼルスに語学留学する。日本帰国後、地元の銀行に就職した後、2003年、ダウンタウン・ロサンゼルスにある専門短大、FIDM(Fashion Institute of Design and Merchandising)に入学。インテリアデザインを専攻する。05年の卒業と共に、日系建築事務所、M. Okamoto & Associates, Inc.に入社。デザインコーディネーター、インテリアデザイナーとして勤務。08年7月に、LEED(環境性能評価システム)の資格を取得。LEED認定プロフェッショナルとしても活躍。www.moainc.net

建築のイロハをすべて学べる

現在進行中のプロジェクトサイトにて。現場を訪
れる度に、自分が手がけた建物ができあがって
いく様を見ると感動

地元の短大を卒業して、1年くらいロサンゼルスに語学留学しました。その後、日本に戻って地元の銀行に就職し、5〜6年くらいで働きましたが、ロサンゼルスのことが忘れられなくて。2003年にダウンタウン・ロサンゼルスにある専門短大、F I D M(Fashion Institute of Design and Merchandising)に入学、インテリアデザインを専攻しました。映画のセットデザインがしたかったのですが、建築やインテリアにも興味がありました。

在学中にインターンシップをして、05年の卒業後、何社か就職活動した中から、建築事務所のMOA(M.Okamoto & Associates, Inc.)で働くことが決まりました。FIDMの先輩の縁で、たまたま募集があると聞いたのでラッキーでした。面接では、「私、インテリアデザインの勉強したんですけど、銀行で働いていたので、アカウントもやろうと思えばできます!」とか、「とにかく何でもやります!」って猛烈にアピールしました(笑)。

働き始めて、最初は何もわかりませんでした。でも、学校で色々習っても、事務所によってやり方も違いますし。建築のすごい学校を出ていたとしても、やっぱり働き始めは「???」じゃないかなと思うんです。私は入ってからの3年間、「えっ?」って感じの連続。先輩の建築士の仕事を見て学ぶという毎日でした。図面も今は1セット作れるようになりましたが、やはり最初は図面を描いているというよりも、アシスタントという感じ。とにかく習うより慣れろだと思います。

大きな事務所だと、仕事が細かく分業・専門化されています。その点、小さな事務所では、図面を描くところから、市とか郡に許可を取りに行ったり、市の担当者の人たちやクライアントとのやりとり、お金のこととかも手がけさせてもらえます。建築に関する仕事を全部まとめてやらせてもらえて、すごくありがたいと思っています。

今もなんですが、やはり苦労させられるのが英語。難解な専門用語もありますが、アメリカ人クライアントや仕事相手に、きちんと説明し、自分の思っていることを100%伝えるのは難しいですね。性格的にもそんなに強く言える方ではないので、市や郡の担当者との交渉も、最初の頃は黙って帰ってきて、先輩から「もっと押さないと!」と言われたり(笑)。コミュニケーションは、まだまだ勉強中です。

それから、一番悔しかった経験は、働き始めて半年くらいの時。あるクライアントに仕事を頼まれました。簡単な図面の修正だけだし、私のほかに誰も事務所に居なかったので、私がやってクライアントに返しました。図面を返しに行った時、そのクライントと話していたら「君は、どこの学校出てんの?」という話になりました。私が「FIDMのインテリアデザインです」と正直に話したら、「えっ、君、建築士じゃないの?」って言われたんです。「でも、全然仕事はできます」と答えて帰って来ましたが、その後、ボスに電話があって、「直した子、建築士じゃないから、お金は払わない」って言われたんです。「私は何も間違ったことをしていないのに…」と、ものすごく悔しかった。


LEED資格試験に一発で合格

LEED(環境性能評価システム)の資格を取ったのは、08年7月。事務所での仕事に徐々に慣れてきて、インテリア以外の何かがやりたいと思ったのがきっかけです。ちょうどLEEDが注目され始めた時期で、「環境のことを勉強するのもいいな」と思いました。何回も試験勉強はしたくなかったので、必ず一発で合格しようと決めて取り掛かりました。事務所での仕事に加え、資格の勉強もしました。とにかく、グッと集中した甲斐があって1回で受かりました。

そして、取得した直後にLEEDを使ったホテル建設プロジェクトの仕事を手がけることになり、実際の仕事でも知識を使う機会に恵まれました。ミーティングに出ても、LEEDの知識がなかったら、まったく何の話をしているか、わからなかったと思うんですね。それが理解できるようになって、自分に自信が付きました。また、そのプロジェクトを通して、試験だけではわからないLEEDのプロセスが理解できたのも幸運でした。

LEEDはアメリカの基準ですが、最近、日本の企業や政府機関でも興味を示しているところが多いのです。日本人で有資格者がまだあまりいないですから、日本人の皆さんにコンサルティングできるよう、内容を日本語で理解していこうと、最近少しずつ勉強しています。

昔の自分と違うと思うところですか? 自分一人で現場に行って、コントラクターやマネージャーと話し合えるようになったところでしょうか。最初はボスの後ろに付いていて、「何を話しているんだろう?」と、ずっと考えていましたから。それこそ壁がどうやって立つのか、天井がどうやって下りてきているのかすら知りませんでした。それが現場でちゃんと意見できるようになったので、随分進歩したと思います。

今の仕事は、もちろん嫌になる時もありますけど、本当に楽しんでやっています。インテリアの仕事をしている時やLEEDの勉強の時などは、自分でも「頑張ってるな」と思えて、やりがいを感じます。

また、現在進行中のプロジェクトが完成したら、すごく感動すると思います。毎回、現場に出かける度に建設が進んでいるのを見て、「すごい進んでる!ちゃんと自分が設計した物が形になっている」っていう感動があります。そういうプロセスが見られるのは、色んな仕事をさせてもらっているからです。

あと、自分が提案したデザインをクライアントに理解してもらえると、やる気が出ますよね。デザインには、人それぞれの感性がありますから、理解してもらえない時は、「感性が違うからしょうがない」と思うようにしています。「自分のセンスが悪いからだ」と思うと落ち込んでしまうので。


仕事を理解できない自分に無性に腹が立つ

仕事を理解できない自分には、無性に腹が立ちます。自分にイライラする時が、一番辛いですね。例えば、設計図面のディテール部分で、理解していないと修正できない部分があるのですが、ひたすら調べても結局わからなくて、「何でできないの、私」っていう時がありますね。小さな失敗は日々ありますし、失敗した時は自己嫌悪に陥って落ち込むことも多いんですが、あまり気にしないで忘れちゃうようにしています。

今後の目標は、LEEDの理解と建築の勉強を深掘りすることです。自分の力不足をもっと勉強して補って、一から全部自分でデザインした物を建てたい。レストランとか環境に調和した店舗デザインをやってみたいですね。あと、LEED基準の新ビルを建てるというのは、今の景気だと難しいですが、既存の建物をリノベーションによってLEED基準に適合させるプロジェクトなら需要があります。LEEDのリノベーションを勉強してやっていきたいです。

プライベートでは、家族を持つことが目下の目標。フィアンセはドイツ人で、ドイツも日本も環境先進国。それでよく環境の話をしたりしています。アメリカで生活していくのは大変だけど、アメリカほど万人にチャンスを与えてくれる国はないと思います。なので、2人で「頑張って生きていこう」と言っているんです。

こんな景気ですから、本当に自分がやりたい仕事を、最初からやらせてもらえるような企業に就職するのは無理かもしれません。でも、とにかく落ち込まず、ひがまないで、失敗して怒られたとしても、それも将来への勉強だと思って、強く生きることが大切ですね。


(2010年3月1日号掲載)