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アメリカで働く(多様な職業のインタビュー集)

現地情報誌「ライトハウス」が長年に渡り連載してきた人気コラム「アメリカで働く」は、アメリカで働く日本人・日系人、100名以上の皆さんへのインタビュー集。業種も、職種も異なる100名以上の皆さんそれぞれにとっての「アメリカで働く」とは?アメリカでの"キャリア"や"仕事"が見えてきます。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

ソーシャルワーカー(サービス・サポート系)

谷口未歩子さん

子供は学ぶ力があるから、回復も早い。
笑顔を見るとどんな苦労も帳消しに。


アメリカで夢を実現させた日本人の中から、今回はセラピストを目指して実務経験を積む谷口未歩子さんを紹介しよう。人助けがしたいと思っていた時に出会ったのが、大学で取った心理学のクラス。大学院で修士号を取得し、現在は子供たちのケアをしながら、資格取得のための実務に励んでいる。


【プロフィール】たにぐち・みほこ■1978年生まれ。三重県出身。高校卒業後、97年渡米。シトラス・カレッジから99年、カリフォルニア州立大学フラトン校に編入。大学卒業後、同大学院に進学。2004年、臨床心理学で修士号取得。現在は非営利団体インナーサークル・フォスターケア&アダプテーション&コミュニティーサービスで、子供たちの心のケアに当たっている
キャリアインフォメーションはこちら

児童虐待の実態に衝撃
助けたいと修士号取得へ

保護される子供たちは、着の身着のままで来
ることも多いので、服などの寄付品は不可欠 

 日本で受験勉強をしていましたが、ストレスが募ったため留学しようと考え、郊外で穏やかそうなシトラス・カレッジを選びました。高校は英語科でしたが、留学して受験英語は通じないと実感しました。使われている言葉が違うし、文法はわかっていても聞き取れないし、言葉が口から出て来ず苦労しました。

 カレッジの心理学のクラスで先生が自分の体験談を話してくれて、アメリカには心理面でのケアがあることを知りました。受験で気が滅入っていた時に助けてくれる人がいたら、と思っていたので、日本に帰ってティーンエイジャーのカウンセリングをしたいと思い、心のケアの勉強を始めました。

 2年でカリフォルニア州立大学フラトン校にトランスファーし、経験を積むためにインターンのクラスを取りました。児童虐待のエージェンシーに所属し、現実としてこんなことがあるんだというショックを受けたと同時に、アメリカではきちんとケアするところがすごいと感動しました。インターンをしているうちに、本当に困っている人を助けるには資格を持った専門家になる必要があると思い、また子供たちと直に接する仕事がしたかったので大学院に進みました。

 大学院では臨床心理学を専攻し、学校のカウンセリングセンターや家庭内暴力を専門とする非営利団体などでインターンをしました。ここでも苦労したのは英語です。まず第1に、私はアメリカで高校に行っていないので、普通なら誰でも知っているような専門用語を知りません。またカウンセリングに来る人は興奮したり、うつでぼそぼそ話したりする人もいるので聞き取りが大変です。その上、私は母国語が英語でないため、相手に「わかっていないんじゃないか」と思われたりして、信頼を得るのに時間がかかりました。

 また授業では、提出したペーパーに「こんな英語力ではマリッジ・アンド・ファミリーセラピストになるのは無理」と先生に書かれて、学校で泣いたこともあります。英語力のせいで自分に自信が持てなくて、落ち込むことも多くありました。でも救われたのは、私が取っていたプログラムは生徒が10人強の少人数で、皆でサポートし合って一緒にがんばるようなクラスだったこと。仲間に励まされて乗り切りました。


赤ちゃんの記憶にも
虐待は残っている

学生時代の友人たち。互いに励まし、支え
合ってきた大切な仲間だ

 2004年に卒業し、現在働いているのはインナーサークルという団体です。ここは児童虐待でフォスターケアに預けられた子供を対象にしており、現在15人の子供たちを担当しています。子供たちの年齢は0歳児から17歳まで。1人当たり週に1回は会い、学校に行って様子を聞いたりします。

 フォスターファミリー(里親家族)は登録制です。フォスターファミリーに登録する人は、自分がフォスターケアを受けたり、虐待の経験がある人も少なくありません。子育ての経験や犯罪歴などのバックグラウンドチェックをし、さらにクラスを取ってある程度の知識を持った人が登録していますが、子供が暴れたり奇行があるなどの相談を受けると、原因を突き止めて対処法をアドバイスします。

 私は子供がいませんが、この仕事を通して、子供を育てるということはどういうことかを学んでいるような気がします。たとえ赤ちゃんであっても、虐待されたことは覚えているんですね。虐待した親の元に連れて行くと激しく泣き叫んだり、何を与えても嘔吐したりするんです。

 最初はケースのことを家まで引きずってしまって、夢に出てきたりしました。ですが自分が精神的に健康でないと、人を助けることはできません。それで今はストレス解消のためにヨガをやっています。自分が落ち込まず、精神的にいつも健康でいることに気をつけていますね。

 この仕事をしていて良かったと思うのは、人が幸せになるのを見る時です。子供の笑顔を見ると、どんな苦労も帳消しされます。子供の力というのはすごくて、大人のうつ病に比べると、学べる力がある分、回復も早い。大人の場合は、長い間悩んでいたけど言えなかったというケースが多いので、その分症状も重くて回復が遅いのですね。子供の時に虐待を受けたのがトラウマになって、大人になって引きずっている人もいます。


守秘義務があるので
疑いがあれば通報を

 マリッジ・アンド・ファミリーセラピストの資格試験を受けるには、修士号の他に3千時間の実務経験が必要です。今で2千時間くらいの実務経験があるので、あと1年ほどで受験資格ができます。資格修得後はトーランスで心理学の先生と一緒に開業する予定で、日本人の方の助けになりたいと思っています。

 精神的にも大変だし、苦労も多い仕事ですが、やり甲斐は大きいので、興味のある人はどんどんチャレンジしてほしいですね。また、周りで児童虐待の疑いがあると思ったら、Child Protective Services(LAカウンティー・☎1-800-540-4000、オレンジ・カウンティー・☎1-800-207-4464・SDカウンティー・1-800-344-6000)に電話してください。守秘義務があるため、誰が通報したかわからないようになっていますので、見て見ないふりをせずに通報してほしいと思います。

(2006年12月16日号掲載)