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アメリカで働く(多様な職業のインタビュー集)

現地情報誌「ライトハウス」が長年に渡り連載してきた人気コラム「アメリカで働く」は、アメリカで働く日本人・日系人、100名以上の皆さんへのインタビュー集。業種も、職種も異なる100名以上の皆さんそれぞれにとっての「アメリカで働く」とは?アメリカでの"キャリア"や"仕事"が見えてきます。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

インターナショナル・マネージャー/プロデューサー(企画・コーディネート系)

寺島真樹子さん

アニメは日本が海外に誇れる産業
日米共同制作で世界でウケる作品を作りたい


アメリカで夢を実現させた日本人の中から、今回はアニメ会社でインターナショナル・オペレーションズマネージャー/プロデューサーを務める寺島真樹子さんをご紹介。アメリカで10年過ごし大学卒業後に帰国。日本企業の米国法人立ち上げに関わって再渡米。現在は大手アニメ制作会社で活躍中。


【プロフィール】てらしま・まきこ■1971年生まれ。大阪府出身。父の仕事の関係で5歳から7歳までイラン、11歳からアメリカへ。UCサンタバーバラ校卒業後、帰国。96年、CG会社の米国法人立ち上げに関与して再渡米。97年、アニメ制作の大手、プロダクションI・G入社。米国法人を立ち上げ、以降マネージャー/プロデューサーとして海外事業を確立。

アニメを知らないことが即採用のきっかけに

 父の仕事の関係で、5歳から7歳までイラン、11歳から16歳までテキサス州のヒューストン、16歳から大学を卒業するまでロサンゼルスに住んでいました。1つ年上の姉が日本で就職しており、両親からのすすめもあって卒業後は私も日本の商社へ就職しました。

 いざ日本へ戻ってみると、物価は高く、社宅は狭苦しく、通勤時の混雑などもアメリカで育った私にとっては衝撃的なカルチャーショックでした。しかも女性の仕事はお茶くみやコピー取りのような雑務ばかり。英語力や国際性を生かせる機会はほとんど与えてもらえず、会社に内緒で通訳のアルバイトなどを掛け持ちしていました。日本の生活に慣れていく一方で、アメリカでの勤務経験がないというジレンマに陥っていた矢先、あるCG会社が米国法人立ち上げのための人材を募集しているのを知り、それを機にアメリカで再出発することを決意しました。

 社長と一緒に渡米し、立ち上げの雑務全般を任され、殺人的に忙しい2年間でしたが、今となっては望んでもできないような経験になり、良い勉強になりました。

 あいにく会社は短期間で撤退しましたが、97年に業界の先輩からプロダクションI・Gというアニメ会社が米国法人を興すための人材を探していると紹介されました。電話での面接で最初に社長から出た質問が「アニメ好き?」でした。私は不採用覚悟の上で「どちらかと言えば好きじゃない」と正直に答えたのですが、「逆にアニメを知らないほうがビジネスに集中できる」と前向きに考えてくれたのか、採用が決定しました。

 社長と一緒だった前回と違い今回は私1人だったので心底不安で、まったくと言っていいほどアニメを知らなかったため、すべてが手探りの状態でした。社長の期待と信頼を裏切らないようにと必死の毎日で、あっという間に2、3年が過ぎ、興味のなかったアニメにも愛着を覚えるようになりました。


法人設立時からの課題、日米共同制作が実現

 当時アメリカでは日本の映像全般の評価が低く、ビルボード誌の売上ベストで5週間1位を記録した95年リリースのアニメ映画『攻殻機動隊』もI・G制作だと知る人はごく稀でした。アメリカでもI・Gというブランドを確立しようという社長の戦略で、あらゆるコンベンションやイベントに参加し、可能な限り宣伝活動をしました。

 3年ほど前からアメリカのスタジオもアニメ人気に注目するようになり、日本からライセンスされる作品の価格が高騰しました。日本の会社も次々と進出して現地の配給会社と直接契約を交わす傾向になった頃、タイミングよく共同制作の話が舞い込んで来ました。アメリカのスタジオと共同制作を実現させるのは、法人設立当初からの課題だったのです。

 その初の共同制作の相手がアメリカ最大のアニメーション専門チャンネル、カートゥーンネットワーク(以下CN)です。I・Gのアニメを評価してくれていたプロデューサーから、日米に限らず世界規模でウケる作品を作らないかという誘いがあり、I・Gのオリジナル企画をベースに26話のテレビシリーズを作ることになりました。『IGPX』(略:Immortal Grand PriX)というロボットのメカレースもので、CNで今年11月放送予定です。

 アニメ制作の実作業は日本ですが、脚本やその他のクリエイティブな部分においてもCNと意見を交換し、開発から制作まですべてを共同で作業しました。声優には、映画『シックス・センス』のハーレイ・ジョエル・オスメントなど大物と契約を結びました。7月中旬にはCNと共同で、サンディエゴで開催される「コミックコンベンション」において俳優たちも呼んで制作発表を行う予定です。これまではほぼ不可能だと思っていた大手のスタジオなどからオファーを出される機会も増え、今後もいろいろな共同制作にチャレンジしたいと思っています。


「風が吹くまで待とう」 、支えられてきた8年間

 I・Gでの8年間は人生の勉強にもなりました。8年前を振り返ると、営業をかけても断られる、良い話も途中で中断されてしまう、など歯痒く悔しい状況を多々経験してきました。そんな時は、社長と初めて会った時に言われた「風が吹くまで待とう」を思い出しました。風に逆らって無理に進むと良いことはありません。自分にいい風が吹くまで努力しながら待つことが大切なのです。社長だけでなくI・G本社の先輩、同じ業界で活躍されているクライアントの皆さんの寛大な理解と絶えない支えがあったからこそ、ここまで来ることができたのだと思います。

 アニメは海外に誇れる日本の文化であり最大の産業です。日本人は手先も器用で優れたアイデアを持つ人も多く、アメリカで評価されると思いますが、中途半端な気持ちで来ると理想と現実のギャップで後悔すると思います。私は5歳の時にまったくアラビア語がわからない状態でイランの現地幼稚園に、11歳の時にまったく英語がわからない状態でアメリカの現地校に入ったので、会話ができない辛さは身に染みています。アメリカはとても良い国ですが、日本ではありえないようなことも起こるため、最低限の英語力は必要です。

(2005年5月1日号掲載)