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アメリカで働く(多様な職業のインタビュー集)

現地情報誌「ライトハウス」が長年に渡り連載してきた人気コラム「アメリカで働く」は、アメリカで働く日本人・日系人、100名以上の皆さんへのインタビュー集。業種も、職種も異なる100名以上の皆さんそれぞれにとっての「アメリカで働く」とは?アメリカでの"キャリア"や"仕事"が見えてきます。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

特殊エフェクトアーティスト(クリエイティブ系)

矢田弘さん

人生は1度きりだから楽しみたい
やりたいことをやったほうが良い


アメリカで夢を実現させた日本人の中から、今回は特殊エフェクトアーティストの矢田弘さんをご紹介。映画『星の王子 ニューヨークに行く』で特殊メークに興味を持ち、単身渡米。あこがれの特殊メーキャップアーティストのスタジオに就職して以来、数多くのハリウッド映画を手掛けている。


【プロフィール】やだ・ひろし■1964年生まれ。大阪府出身。特殊メークに興味を持ち、89年に渡米。メーキャップスクールを卒業後、95年、「SMGエフェクト」に入社。ミュージックビデオなどを手掛ける。99年、「シノベーション」に入社。手掛けた作品は『グリンチ』『猿の惑星』『メン・イン・ブラック2』『リング』『リング2』など多数。
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英語力もツテもなく、さまざまな仕事を転々

 高校を卒業後、たまたま就職した会社が、映画などの美術と小道具をセットに運ぶ仕事をしており、そこで映画『ブラックレイン』の撮影に関わりました。その時初めてアメリカ人と一緒に仕事する機会を得たのですが、皆楽しんで仕事をしているのが伝わってきて、自分もアメリカに行って仕事をしたいと考えるようになりました。波乗りをしていたので、カリフォルニアには行きたいと思っていましたし、映画『星の王子 ニューヨークへ行く』の理髪店のシーンでの特殊メークに感動して、特殊メーキャップアーティストに興味を持っていました。『ブラックレイン』でアメリカ人と仕事をしたことで決心し、89年に渡米しました。

 ロサンゼルスに知人はいなかったので、最初はホームステイをしていました。そのうちに友人もでき、友人と一緒にカーペットクリーニングの会社を始めたり、貿易関係の仕事をしたり、古着の会社を作ったりしていましたが、波乗りをしに数カ月ハワイに行ったこともありました。英語力もツテもなかったので、特殊メークの世界に入るきっかけをつかめずにいたのです。

 転機が訪れたのは渡米して3、4年目でした。グリーンカードの抽選で当選したのです。「これでアメリカでもチャレンジができるかもしれない」と思い、メーキャップの学校に通いました。学校を卒業すると、メーキャップマガジンに載っていたスタジオに片っ端から電話をかけましたが、すべて断られました。ですが、特殊メークでは日本人で第一人者のスクリーミング・マッド・ジョージさんのスタジオ「SMGエフェクト」に何度目かの電話をかけた時に、秘書の人が「とりあえず作品を持っておいで」と言ってくれたのです。

 その作品は今思えばひどいものだったのですが、ジョージさんが「ちょうど大きなスタジオに移動したところだから、片づけを手伝ってみるか」と言ってくれました。ラッキーだったのは、この片付け作業をするうちに、特殊メークに必要なケミカルなどの素材を覚えることができたことです。またこの時にミュージックビデオの撮影に関わることができ、ノーダウトなどトップアーティストのビデオで特殊エフェクトの手伝いをする機会に恵まれました。


人脈を次々と広げて憧れのスタジオへ

 SMGエフェクトにいる間に友人を作って、他のスタジオに行ったりしながら人脈を広げていきました。どうしても『星の王子 ニューヨークへ行く』を手掛けたリック・ベイカーのスタジオ「シノベーション」で働きたかったのです。チャンスがやってきたのは99年でした。たまたま知り合った人が推薦してくれて、彼の会社「シノベーション」の面接を受けることができ、採用になりました。憧れのリック・ベイカーに会ったのは初日です。自己紹介で握手をした時は、手が震えました。彼に会うといまだに緊張します。以来、『グリンチ』『猿の惑星』『メン・イン・ブラック2』などを手掛けました。

 特殊メークは、まず俳優さんの顔の型を取り、彫刻を作り、ペイントしますが、大きいスタジオではすべて分業で、僕が携わっているのはメークをする前の型取りです。『猿の惑星』の撮影では、エキストラ用の猿のマスクを担当しました。北カリフォルニアの砂漠ロケでは毎朝3時や4時からの撮影だったのですが、ベーカーの作品を彼と共に手掛け、同じ現場で働いている、と思うと朝早いのも苦にならず、同じテーブルで朝食をとっているだけで感動するものがありました。

 『ホーンテッドマンション』ではゾンビのコスチュームを手掛けました。この映画は『星の王子 ニューヨークへ行く』と同じエディー・マーフィー主演でベイカーが特殊メークを手掛けたので、感慨深かったですね。別のスタジオでは、『宇宙戦争』の撮影でスティーブン・スピルバーグ監督に会う機会もありました。トム・クルーズが宇宙船に連れ去られそうになるシーン用に、自作のエフェクトを見せに行きました。


60歳になっても先を見ていたい

 これからアメリカを目指そうと思う人は、人生は1度しかないので、やりたいことをやったほうが良いと思います。ただ、学校に行くのは良いのですが、学校を出たからといって仕事はありません。やる気のある人だけが残っていくのです。それと人脈は非常に大切なので、友達はたくさん作ったほうが良いですね。アメリカに来たなら、アメリカ社会に飛び込んだほうが面白いものが発見できます。僕は英語も友人から学びました。ノーダウトのミュージックビデオに関わった時のことですが、ミーティングは全員イギリス人だったのです。僕はイギリス英語が苦手なのですが、その中にメタリカのミュージックビデオで以前一緒に仕事をして友人になった人がいて、後でその人が説明してくれて何とか事なきを得ました。

 これからは自分が撮影に関わった映画のスチール写真にも取り組んでみたいですね。またスキューバダイビングのライセンスを取って海の中の写真も撮りたいし、人生を楽しみたい。60歳になっても「5年後にはこれをするぞ」というものを持っていたいと思っています。

(2005年10月16日号掲載)