働く
JOB

アメリカで働く(多様な職業のインタビュー集)

現地情報誌「ライトハウス」が長年に渡り連載してきた人気コラム「アメリカで働く」は、アメリカで働く日本人・日系人、100名以上の皆さんへのインタビュー集。業種も、職種も異なる100名以上の皆さんそれぞれにとっての「アメリカで働く」とは?アメリカでの"キャリア"や"仕事"が見えてきます。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

映像プロデューサー(クリエイティブ系)

藤井 智さん

英語版をいかに魅力的にするか。
見たくてたまらない作品を作りたい


アメリカで夢を実現した日本人の中から、今回は映像プロデューサーの藤井さんを紹介。今や日本文化の1つとして挙げられるアニメ作品をアメリカ向けに商品化している。英語版にする作品の買い付けや、日本語から英語へのセリフの翻訳はもとより、英語版を前提に作品の企画にも携わる。


【プロフィール】ふじい・さとし■1972年、名古屋市生まれ。大手ガラス会社に勤める父親の転勤で10歳の時にシアトルへ。高校までシアトルで過ごし、ニューヨークのコロンビア大学へ入学。フィルムスタディーを専攻に卒業し、95年、日本の映像製作会社に入社。4年後に再び渡米し、2000年よりロサンゼルスのPioneer Entertainment(現Geneon Entertainment (USA))に勤務する。

どんな映像作品にも
エンタメ性が必要

『エルゴプラクシー(“ERGO PROXY")』Fuse
TV(ケーブル)でシリーズ放映中

 子供の頃から父の転勤が多く、10歳の時にはシアトルに移りました。アニメや漫画が好きで、漫画は日系の書店で買ったり、友達と貸し借りしていました。テレビでも『宇宙戦艦ヤマト(“StarBlazers”)』や『超時空要塞マクロス(“Robotech”)』の英語版が放映されていました。

 高校でやっていたアメフトの実力を見込まれて、コロンビア大学へ入学。最初は経済学や東アジア研究の専攻を考えていたのですが、興味半分で取っていたフィルムスタディーの方が面白かったので、こちらを専攻に決めました。

 大学卒業後の就職は日本と決めていました。日本でほとんど教育を受けたことがないので「このままでは自分は変な日本人になってしまう」という焦りがあったからです。95年の日本は超就職氷河期でしたが、医学系専門の映像プロダクションが英語力を買って採用してくれました。

 最初は企画部で英語によるリサーチを行い、日本語での企画書の書き方なども習得しました。そこである企画が通り、それをきっかけに脚本・演出を手掛けるようになりました。たとえ医学系の小難しいものであっても、映像作品を作る面白さはどんなものにもあります。情報だけを羅列しても誰も観てくれない。どうやったら興味を持ってくれるか、肝心なのは最終的にできた作品のエンターテインメント性です。自分が映像の世界に興味を持ったのも、エンターテインメントが好きだったからです。

 やがて、本当の意味でエンタメの世界に入るにはロサンゼルスしかないと思い、日本の制作会社に4年勤務した後、再び渡米。日本人というバックグラウンドが活かせるエンターテインメントといったら、やはりアニメです。当時、『ポケットモンスター』や『ドラゴンボール』などがこちらでもヒットしていました。ロサンゼルスにあるアニメ系の会社に履歴書を送り、その中で今の会社に採用してもらいました。


日本語版を
英語版にする醍醐味

『ヘルシング(“HELLSING")』。アニメ業界
では「超」ヒット作品

 現在、プロデューサーとして、主に日本のアニメをこちらに紹介する仕事に携わっています。作品の買い付け、契約書の確認、英語版の吹き替え、マーケティング戦略、DVDやパッケージの製作、商品が店頭に並ぶまで、すべてのプロセスを管理します。

 それぞれの作業はいろんなスタッフがやるのですが、それら全部通して携わっているのは自分だけなので、作品の統一感を出して、「格」を上げていくのが自分の仕事です。作品のアピールポイントを自分が各スタッフに伝えていかないと、最終的にでき上がったものが、「しっくりこない」ものになってしまいます。自分の考えを元に、皆をまとめていくというのは非常に難しいことですが、やりがいのあることです。コミュニケーション能力が1番重要ですね。

 作品によっては企画段階から携わることもあります。企画書を読んで出資するかどうかを決める−アメリカで流通することを前提として製作を始める−というケースです。最近担当した『エルゴプラクシー』がその例です。

 自分が特に深く関わっているのが、英語版の制作の部分です。日本語を英語に直しただけで、その作品の面白さが再現できるわけではありません。口の動きに合わせなければならないし、各シーンの演技にも合わせなければなりません。実際の作業は吹き替え監督やライターなどの専門家に任せますが、翻訳はすべて目を通しますし、演技や台詞のニュアンスもすべて確認して指示を出します。

 例えば、『ヘルシング』という作品は、英語版が非常にうまくできた例。舞台がイギリスなので、登場人物はもともと英語で話しているべきもの。そういう場合は意地でも英語版は日本語版に負けられない(笑)。ライター、ディレクター、役者がみんな頑張ってくれて、『ヘルシング』は、英語圏のアニメファンに非常に高い評価を得ています。

 同作は企画から関わっていたのですが、02年に出したテレビシリーズがアメリカでとてもウケが良く、「もう1度作りませんか」と、日本側に2年かけて強力にプッシュ。「やれば絶対に当たる」という自信があったんですね。そして、06年に第2弾が出ました。


アメリカでウケる
作品づくりが目標

 この仕事は、「アニメが好きだから」というだけでできる訳ではないと思います。自分のコントロールが効く部分で、どこまでクオリティーを上げていくことにこだわれるか、それが面白いと思えなければ向かないですよね。へたくそな英語版や作品の良さを伝えられていないパッケージは、見ればすぐにわかる。そういう物は作りたくないですよね。もちろん、こだわり過ぎて締め切りを守れなかったらダメ。それを両立させるためには、休日出勤も徹夜もしちゃいます(笑)。

 この仕事をやってきて良かったと思うのは、多くの作品に深く関わることができたこと。セリフを全部覚えてしまうくらい、1つの作品を何度も見ていますから。そうやって作業しながら、「こうしたらもっとアメリカでウケる」とか、「どういう企画書から始まって、最終的にこういう作品になったんだろう」とか、常に考えています。そうやっていろんなアイデアを自分の中で温めています。

 日本のアニメがニッチだけでなく、より広く受け入れられるためには、さらに工夫が必要だと思います。そういうアングルで、作品の企画の根っこから、より深く関わっていくことが、自分の次のステップだと考えています。みんなが見たくてたまらないコンテンツを作りたいですね。

(2007年8月1日号掲載)