クリニカル・セラピスト(医療・福祉系):松田佐世さん

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アメリカで夢を実現させた日本人の中から、最終回となる今回はクリニカル・セラピストの松田佐世さんを紹介。現在、MASADAホームで、問題行動を起こしたティーンエイジャーをカウンセリングする。

【プロフィール】まつだ・さよ■福岡県出身。宮崎国際大学卒業後、渡米。同大在学中に出会った日本人心理学者の影響でカウンセラーを志す。マウント・セント・メリーズ・カレッジにてカウンセリング・サイコロジーを専攻、修士号取得。卒業後、ガーデナにあるMASADA HOMESで、問題行動を起こしたティーンエイジャーたちの更生をカウンセリングを通じて行っている。

そもそもアメリカで働くには?

日本人教授との出会いが
心理学を志すきっかけに

宮崎国際大学という、授業のほとんどを英語で行う学校に通いました。2年生の後半になると、全員が半年間留学するプログラムがあったんです。私はオーストラリアに留学し、海外で生活をするという貴重な経験をしました。
 
大学3年の時に出会った日本人教授の影響で、心理学に興味を持ちました。教授がアメリカの心理学学会に参加するのに同行する機会を得て、それがきっかけとなってアメリカで勉強したいと思いました。3、4年生で心理学を本格的に勉強し、2000年3月の卒業後、ロングビーチの語学学校に入学しました。
 
語学学校在学中に大学院を探し、マウント・セント・メリーズ・カレッジ大学院に入学しました。カウンセリング・サイコロジーを専攻し、心理学の基本的なことはもちろん、セラピストになるための理論やテクニックを勉強しました。英語は問題ないと思っていたのですが、いざクラスが始まると自分の意見が言えない。読書量やペーパーの多さと言葉の壁に、睡眠時間を削って勉強に費やして対応しました。
 
アメリカに来た時からセラピストになろうと思っていましたが、セラピストにも色んな分野があって、どの分野で働きたいかという希望は全然なくて、とにかく人を助けたいという思いが1番にありました。
 
大学院にはインターンシッププログラムがあり、アジアン・パシフィック・カウンセリング・アンド・トリートメント・センターという所で、トレーニングさせていただけることになりました。そこでは、メンタルヘルスの問題がある重度な障害者たちが毎日来て、グループで活動して、1日を過ごして帰って行くというリハビリテーションを行っていました。その人たちに問題が起きた時、どうやって解決していくかという簡単なグループセラピーなどをさせていただきました。このインターンシップをするうちに、私は子供と仕事がしたいと思うようになりました。子供といる時の方が、自分が楽しんでいることがわかったんですね。
 

カウンセリング対象の
子供たちが面接を担当

最初に面接をしてくれたルイス・ロッケさん(中央)
と、現在グループホームで子供の独立を手助け
するハリー・フレッチャーさん

大学院卒業後、結婚の準備などもあり、就職活動を後回しにしていたら、プラクティカルトレーニングが切れる寸前。あせって新聞でメンタルヘルスのセラピストの求人を探して、10件近くインタビューを受けました。現在、働いているMASADAホームズからも、フォスターケア・プログラムの方から電話がかかってきました。しかし、私はソーシャルワークよりもセラピストになりたいから、一旦はお断りしたんです。そうしたら、今度はグループホームの方からインタビューしたいと電話がかかってきたんです。それならと、インタビューを受けることにしました。
 
このMASADAホームズというのは、ロサンゼルス・カウンティーと契約をして、ソーシャルサービスを提供しています。学校や住居の問題などに関して、専門家が家族を助けたり、ドラッグ問題のある子や、提携を組んでいる学校から問題ありと言われた子たちを、カウンセリングするプログラムもあります。
 
インタビューは、1回目は電話をかけて来た人と、2回目は何と、グループホームにいる子供たちとしたんです。グループホームの子供たちにとって何が1番必要かというと、その人が信用できるか、ウソをついていないか、本当に自分たちのことを思ってくれているのかということです。多分そういうことをテストされていたと思うんですね。最後に私をインタビューしてくれた担当の人が、「じゃ、サヨを雇うかい?」って子供たちに聞くと、「イエス」と言ってくれ、採用が決まったみたいです。
 

身体が大きくても
中身はまだ子供

私は、今、グループホームというプログラムに所属しています。グループホームでは13歳から18歳くらいの男の子で、窃盗、強盗、ギャング問題、ドラッグ、不登校、暴力などで、保護観察処分になっている子供たちが集団で生活をしています。重大な事件を起こし、裁判官に命じられてグループホームへ来た子たちを担当しています。ほとんどの子供が少年院から来ます。だから、「怖くないの?」とよく聞かれます。ガタイが大きい子でも、中身はまだ子供。本気で面と向かってくれる人、悪いことをしたら叱ってくれる人、そういう人が今までいなかったために、問題を起こしてしまったんじゃないかなと、私は思うんです。反抗する子もいますが、繰り返し会って、何かしてあげようとする姿勢があると、大体の子が理解してくれます。
 
グループホームにやって来る子供は、絶対にセラピーを受けないといけません。だから、しょうがないという投げやりな子もいます。でも、「ここに来る時は、あなたにとって楽しく、有効な時間でなければいけない。だから嫌々来てほしくない」と、最初に私の方針を伝えるんです。そうしたら、ちゃんと自分から受けに来ますね。彼らの中でも、自分にはカウンセリングが必要だって、わかってくるみたい。
 
子供と接していることは、全然苦になりません。1番大変なのはペーパーワーク(苦笑)。子供に、「Fxxk you!」とか言われる時もありますが、たしかにその場では「キーッ」となるんですが、何か理由があるんだろうなって。逆に1番うれしいのは、子供たちがここを去って行くこと。たまに電話があったり、会いに来てくれたりすると本当にうれしいですね。
 
カウンセラーは色んな本を読んで、日々、勉強しなきゃいけない。今はそういう時間がないんですけど、常に学ぶ姿勢が大切かもしれませんね。終わりがないんですよ、カウンセラーって。
 
将来の目標は、まずセラピストのライセンスを取って、スーパーバイザーになること。インターンシップをしていた時に私のことをサポートしてくれた日本人のスーパーバイザーがいたんですが、その人のようになりたいと思っています。そして、学校に戻って博士号を取りたいと思います。セラピストは、いくつになってもできるんです。60、70になっても、ティーンエイジャーの気持ちがわかるおばあちゃんになりたいと思いますね。子供たちにとって、今の私の年齢は、親とあまり変わらない時もあるんです。それでも、「私も昔はティーンエイジャーだったから、あんたたちの気持ちはわかる!」っていつも言ってるんですよ(笑)。
 

(2009年6月01日号掲載)

「アメリカで働く(多様な職業のインタビュー集)」のコンテンツ