ウエイター/ソムリエ(サービス・サポート系):佐藤 恵一さん

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ワインは美味しく楽しんでもらえれば正解
ソムリエはその手助けをするだけです

1千種類ものワインリストを誇るアナハイムの高級レストラン「ナパ・ローズ」で、ウエイターのキャプテン、ソムリエとして活躍する佐藤恵一さんを紹介。国際的なソムリエ認定の第3レベルまで取得している。

【プロフィール】さとう・けいいち■1967年岩手県生まれ。東京調理ビジネス専門学校卒業後、87年に渡米し、ハンティントンビーチの日本食レストランで働く。95年、アナハイムのパン・パシフィックホテルに就職、2000年10月より「ナパ・ローズ」に勤務。The Court of Master Sommeliersのアドバンスド認定

そもそもアメリカで働くには?

飲食業の基本はお客様を喜ばせること

「今の私があるのはみんなの助けがあってこそ」。
The Court of Master Sommeliersの前プレジデント、
フレッド・デイム氏(中央)と

小学校から高校までずっとバスケットボールを続けており、大学もバスケで入ろうと思っていたのですがうまく行かず、専門学校に進むことにしました。岩手の実家では納豆とパンの製造・販売をやっており、父の代には喫茶店と小売店をやっていましたので、元々商売に興味があったのです。自分もいつかビジネスを始めたいと思い、東京食糧学院の経営する東京調理ビジネス専門学校に入学しました。日本料理やフランス料理などひと通りの調理を覚え、外食文化やビバレッジについても学びました。
 
卒業後、日本では得られないものを得たいと思い、アメリカに行くことに。専門学校の先生から教え子の勤めるハンティントンビーチの日本食料理店での仕事を紹介してもらったのです。
 
ご飯炊きに始まり、天ぷらや寿司などを調理させてもらうようになりましたが、厨房ではスペイン語と日本語しか使いません。せっかくアメリカに来たのだから、英語を上達させたいと思い、お客さんの前に立つ鉄板シェフを希望しました。その後、ウエイターやバーテンダー、フロアマネージャーまで担当し、7年間同店に勤めました。
 
そこでは、いかにしてお客様を喜ばせるか、常連客のありがたさなどを学びました。ですが、もっと外の世界が知りたいと思い、店を辞めることにしました。その後、ベニハナでウエイターをしたり、知り合いの居酒屋を手伝ったり、ハリウッドのイタリアンレストランの厨房で働いたりと、しばらくは社会勉強で、色々なお店で働きました。

いつかは自分の時代が来る 陰の努力を重ねる日々

ある時、アメリカ人の同僚から「アメリカのレストラン産業をもっと知りたいなら、ホテルで働いてみては」と言われ、アナハイムのパン・パシフィックホテルのメインダイニングのウエイターに応募。日本人としては私が唯一採用されました。ところが入社した途端、ホテルがディズニーランドに買収されることに。採用間もない私は、そのままディズニーの社員として残ることになりました。そこで5年近く朝のシフトで働きました。
 
すると今度は、ディズニーが新しいホテル、ディズニーズ・グランドカリフォルニア・ホテル&スパを開けるという話が。私は上司から、ホテル内のナパ・ローズというレストランへの異動を推薦されたのです。
 
当時私はトレーナーもしていましたし、その働きぶりを買われたのでしょう。日本人は基本的に真面目。それに私は商売をやっていた父親譲りで、雇われている身でも自分のレストランだと思って働いています。実際、病欠したことはありませんでしたし、人の見ていないところでもしっかりやっていました。そういった心がけが認められたのだと思います。それに、そこではソムリエの資格も取らせてくれるというのです。専門学校時代からビバレッジには興味があったので、移ることにしました。

ソムリエは才能がなければその分努力するのみ

ファインダイニングで勤務するのは初めてでしたので、ディナーのシフトは経験者が優遇され、私の担当はずっとランチとブランチ。また日本人客も多くなく、日本語が強みにはなりません。一生懸命やっていても報われず、悔しい思いばかりでした。ただ、そこでソムリエの勉強をして、キャリアのある人たちよりも高い成績が取れたことが励みとなりました。私の場合、英語の筆記には苦戦しましたが、テイスティングが得意だったのです。
 
やがて働きぶりも認められて、ランチのキャプテンに抜擢され、ディナーのシフトに変わりました。現在はウエイターのキャプテンとして、フロア全体を見ています。
 
ソムリエの資格を取得するには、「The Court of Master Sommeliers」の認定試験を受けます。4段階あり、最終のマスターまで行くとディプロマ(修了証)がもらえます。私はその1つ前のアドバンスドまで取りました。
 
試験では実技とテイスティング、筆記があり、どれも同時に合格しなければなりません。実技ではデキャンティングやフードとワインのペアリング、葉巻のカッティングの仕方まで試されます。筆記はワインの知識を問うもので、各国のワイン法、産地、名称や製法のほか、ドイツ語やフランス語のワインリストから間違いを探す問いなどもあります。テイスティングも世界のワインから、色、香り、味でどこのものか判断できなければなりません。
 
ナパ・ローズはワインを売りにしていますので、マスターを持っているマネージャーが、店のワインリスト作りやワインの買い付けを任されています。アドバンスドも私を含め4人もいます。ワインリストは350、実際は1千種類以上あります。また、グラスワインだけでも60種類あり、我々はその味をすべて把握していなければなりません。
 
とはいえ、ワインは楽しむものです。実際に店で給仕をする時にワインの知識を語る必要はありません。相談を受けた時に選ぶ手助けをするというのが基本姿勢です。「ワインを飲んだことがない」「赤ワインは渋くて敬遠しているが…」といったお客様が、「美味しい」「ワインの世界が広がった」と言っていただける時が1番うれしいですね。
 
いつかはマスターを取りたいと思っています。1つの頂点を極めるのは大切なことですから。でも、目標は自分の店を持つことですね。あまり敷居は高くないが、置いてあるワインがちょっと違う、ビールはとても冷えているといった、サービスの行き届いた店を開きたい。
 
飲食業を目指す人は、どうやって人に喜ばれるか、思いやりを持つことが大事ですね。「欲しい」と言われる前に持って行く。黙って動ければ1番です。また、ソムリエを目指す人には、「努力するのみ」とアドバイスします。近道はありません。才能がないと思ったら、私のようにそれを補うよう努力すればいいんです。
 
(2008年8月1日号掲載)

「アメリカで働く(多様な職業のインタビュー集)」のコンテンツ