マッサージセラピスト(医療・福祉系):山口 徹也さん

ライトハウス電子版アプリ、始めました

大事なのは、お客さんの心を理解すること
そうすることで身体の痛みも消える

アメリカで夢を実現させた日本人の中から、今回はマッサージセラピストの山口徹也さんを紹介。数々の職業を経てたどり着いたマッサージの道で、人の心と身体を癒し続けている。

【プロフィール】やまぐち・てつや■鹿児島生まれ。15歳で渡米。大学では農学を専攻した。趣味で通い始めた航空学校で航空ライセンス取得。その後、マニキュアリストとしてのキャリアを経て、マッサージセラピーを学ぶ。現在、ウエストコビナの女性専用のサロン「M’s Salon & Day Spa」で活躍中。

そもそもアメリカで働くには?

身体の仕組みから技術・心のあり方まで学習

キングストン・ユニバーシティーから
マッサージセラピストの修了証を授与

 父親が帰米2世で、私は中学卒業後に渡米しました。大学では農学を専攻し、農薬管理指導士の資格を取得しましたが、飛行機に興味があったので、航空学校に入り、日本人向けの通訳をしながら練習を積んでいました。生徒の中の1人がカイロとマッサージの仕事をされている方で、ちょうど肩を痛めた時に診てもらい、マッサージに興味を持ちました。
 
 また、その学校で日本人の美容師の方にも出会い、美容にも興味を持ったので、美容学校に通ってネイルの資格を取って、マニキュアリストとして仕事を始めました。マニキュアリストの仕事は2年ほどやっていましたが、お客さんの中には、肩凝りなど、身体の不調を訴えてくる人も多く、マッサージの需要があるのではと思い、東洋と西洋のマッサージ技術が学べるキングストン・ユニバーシティーに入りました。
 
 大学では、東洋式とヨーロッパ式のマッサージ知識と技術を集中して学びました。人体の仕組みや、ボディーワーク、マッサージのテクニックを習得、精神的な面では、ポジティブエナジーを学び、悩みを抱えるお客さんを良い方向に導き、ストレスを解消するといったマッサージ方法も学びましたし、身体が痛いという人に対するペインマネジメントなども学びました。
 
 私の通った大学はメディカルクリニックですので、身体の仕組みから精神的なものまで、広範囲にわたり、専門的な知識や技術を得ることができました。マッサージを習うといっても、ただひと通りのテクニックを学ぶだけではないんですよ。1人1人身体のつくりも違いますし、悩みも違いますし、痛みの原因も違います。また、受ける側にも1人1人好みがありますし、ニーズも違います。実際のところ、マッサージについて、学ぶことに終わりはありません。

開業には覚悟が必要 年月と共に発展

 集中講座を取りましたので、学校は6カ月で卒業できました。卒業して免許を取得すれば開業できますので、あとは個人のテクニックとスピリット次第です。まずは見習いとして働き始めるのが順当なのでしょうが、私の場合、マッサージセラピストだけでなく、美容師やマニキュアリストの免許も持っていましたし、これまで色々な経験を積んで来ていましたので、卒業後、すぐに開業できました。
 
 ウエストコビナで開業する時に、日本人を対象にしようと日系スーパーの近くの場所を選びましたが、来られる方はやはりアメリカ人が中心です。開業には、よほどのやる気がないと。オープンしてすぐにお客さんでいっぱいになるわけではありませんから、そうした覚悟が必要です。最初の頃は、1週間に1人ということもありましたが、現在はおかげさまで、遠方から来られる方も多く、サンディエゴやサンオノフレから来られる方もいます。看護師や医師など、なぜか医学関係のプロフェショナルの方が多いですね。
 
 私のクライアントは99パーセントが女性客ですが、直接女性の肌に触るので、そこに気を遣いますね。プロだからということで信用していただいています。これまでの経験を活かし、スキンケアとマッサージをする女性専用のサロンになったというのも、結果的には偶然ではないのかもしれません。来られる方は皆さん、口コミです。ありがたいことですね。この仕事は、年月が経てば経つほど、忙しくなると思っています。

まず自分を信じ、相手の気持ちになる

 東洋の思想に「一心一体」というのがあります。1つの身体には、1つの心が宿る。心と身体はつながっているんです。ですから、痛いからといってその部分だけをマッサージしても、あまり効果はないんです。テクニックも大切ですが、マッサージをする時に、お客さんの気というか、心が見えていないとダメ。こちらの気も伝わりませんから。
 
 マッサージをする上で1番大事なのは、お客さんの心の中を理解すること。なぜ、どこから、その悩みが来ているのか、なぜ、その身体の一部が痛いのか。そういったことを見抜けないと、いくらマッサージをしても痛みは消えませんし、心の悩みも消えません。
 
 足が痛いと来られた方も、ただそこをマッサージするのではなく、「なぜ、この足が痛くなったのだろう」ということから始めますので、まず2ページ程度のカウンセリングシートに情報を書いていただき、マッサージが終わった後も、一緒に座って話し合います。患者さんというより、友達という感じで親身になってお話しします。会話の中で、身体の問題ではなく心の方に問題があるということもわかるんです。私自身、色々なことを経験してきていますし、年の功かもしれませんね。皆さんは、そういうところを気に入ってくださるのかもしれません。
 
 この仕事をやっていて、つらいことは1つもありません。毎日が楽しいです。自分の行っていることで、身体の痛みがなくなったり、心のあり方が変わったりして、人の人生を変えている。不思議な仕事だと思っています。
 
 この仕事を目指す人は、まず、自分を信じることが大事。勉強する時も、ただ知識やテクニックを身に付けるのではなく、どうやったらお客様から信用してもらえるかということを考えながら学んでほしい。それには、まず自分の気持ちと技術を信用すること。そうすれば、お客様にも通じます。
 
 これからの目標ですか? 今やっていること自体が目標かもしれませんね。色々な人の人生を変えられるし、痛みも取れるし。アメリカで言う、「ヒーリングハンド」、人を幸せにする手を神様からもらえたのかなと思っています。そういう力を手の中にずっと持っていたのかもしれませんし、色々な経験をしてきたからこそ、この仕事にたどり着いたのかもしれません。これからも自分の手足が動く限り、人を幸せにしていきたいと思っています。
 
(2008年4月16日号掲載)

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