フィジカルセラピスト(医療・福祉系):安中 崇恵さん

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手厚い看護とリハビリで
奇跡の回復をとげた患者さんも。
人間の生命力に驚かされます

今回はフィジカルセラピストの安中崇恵さんを紹介。患者とのコミュニケーションを大切に、ケガや病気の後遺症と闘う人々をサポート。フィジカルセラピストという立場や仕事内容、これからの抱負などを聞いた。

【プロフィール】あんなか・たかえ■1974年、群馬県生まれ。カリフォルニア大学リバーサイド校を卒業後、ロマリンダ大学大学院に入学。フィジカルセラピストの博士課程を修了する。現在、カリフォルニア大学サンディエゴ校のリハビリテーション科に所属し、フィジカルセラピストとして勤務する。

そもそもアメリカで働くには?

ヘルスケアに興味
経済専攻から医療の道へ

外来クリニックの様子。患者は
指導を受けながら個々のプログラムをこなす

 私は現在、フィジカルセラピストとして働いていますが、実を言うと、最初からこの職業を目指していたわけではありませんでした。当初は経済の勉強をするために、カリフォルニア大学リバーサイド校で経済学を専攻していたのですが、3年生の時に、医療の分野を目指している友人からヘルスケアや薬剤の話を聞いたり、当時、慢性の腰痛に悩まされていた妹に付き添って病院やカイロプラクティックに通院しているうちに、医療という道に少しずつ興味を持ち始めたのです。
 
 大学卒業後は日本に戻って就職するつもりでいたのですが、色々と考えた末、やはり、医療の道を目指すことに決めました。それでロマリンダ大学に入学したのですが、せっかくならフィジカルセラピーを究めたいと思い、マスターコースではなく、ドクターコースで勉強をし始めました。
 
 学士では経済専攻だったので、医学の勉強は本当に大変でした。とにかく膨大な量の本を読まなければいけませんでしたし、それを1つ1つ、頭できちんと理解しなければなりません。言葉の壁もありましたので、とても苦労したことを覚えています。今、振り返ると、あの時の勉強は学士とは比較にならないほど大変でした。
 
 大学院での1年目は、実際に検体を使った人体解剖での学習です。筋肉や骨格、脳など、人体の構造についての学習が中心でした。2年目は病院での臨床研修で、1年目に教室で学んだことを現場で直に体験します。「あの時に習ったのは、こういうことだったんだ」と、色々なことが結びついていった年でした。3年目は、過去のデータやレポートを勉強したり、数値をもとに、どうすれば効率の良いセラピーができるかといったリサーチ、実際の患者さんの病状をもとにしたケーススタディーなどを勉強しました。
 
 卒業後は、いくつかの病院でインターンとして働き、そのうちの1つであったロサンゼルスのカイザーパーマネンテに就職が決まりました。その後、インターネットでカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のメディカルセンターで、フィジカルセラピストを募集していることを知り、応募してみたところ採用となり、現在に至っています。

手術後のリハビリを
担当制でサポート

チームワークを大切にしている
仲の良いリハビリスタッフの仲間たち

 UCSDメディカルセンターは、保険のない人でもホームレスの人でも、運ばれて来た人たちは皆受け入れるというポリシーを持っているため、他の病院と比べて急患や重篤な人、複雑なケースの人が多く、ここで働き始めた時はその違いにとても驚きました。
 
 リハビリが必要な患者さんの幅も広く、交通事故で複雑骨折した人や、脳卒中により身体が麻痺してしまった人、ヤケドを負った人、小児麻痺の子供、ケガをしたスポーツ選手、ガンの手術後のリンパ浮腫のためのマッサージなど、その必要性はさまざまです。なかには認知症のお年寄りや、家族がサポートしてくれない人、1人暮らしのお年寄りもいますので、患者さんから色々な事情を聞いたりするなど、コミュニケーションを大切にしながら、1人1人に合ったリハビリプランを立てています。
 
 退院までのプランは、その人が入院前はどんな生活をしていたのか、術後の経過、退院時の状況、家庭環境、老人ホームやホスピスなど他施設の紹介、また医療保険の適用範囲なども考慮しつつ、家族の方々やメディカルチームと相談しながら決めていきます。
 
 UCSDメディカルセンターは、セラピストも担当制となっています。私は現在、膝や関節などの手術を受けた人たちのリハビリを担当しており、患者さんができるだけ早く普段通りの生活に戻れるよう、さまざまな面でサポートをしています。

関心高まる職業
日本での活動も視野に

 この仕事をしていると、人間の生命力や気力に驚かされることがたびたびあります。例えば、医者が回復の見込みがないと判断した脳梗塞の患者が、奇跡的に歩けるまでに回復することもあり、時々、医学では説明のつかないことが起きたりするんです。また、家族の手厚い看病とサポートによって、手術後の回復がとても速くなることもあります。
 
 またそれとは逆に、何度も手術を繰り返している人は、悲観的になることもしばしばありますし、術後に痛みがある人は、リハビリをしたがらないこともあります。そういう人たちにはリハビリの必要性をしっかりと説明し、フィジカルな面だけでなく、メンタルの面でもサポートしなければなりません。
 
 私は日本のリハビリの現状についても興味を持っています。今後、日本でフィジカルセラピストとして働くチャンスがあるかどうかはわかりませんが、その機会が急に巡って来てもいいように、準備だけはしておきたいと思っています。これから意欲的に研修会などにも参加して、多くの人たちと知識や体験談を交換し合い、日本の情報を収集しておきたいですね。
 
 私が大学院で勉強していた頃は、フィジカルセラピストという職業は、あまり日本人には人気がなかったように思うのですが、この頃、なりたいという人が増えてきて、とてもうれしく思います。
 
 フィジカルセラピストは、体力的にも精神的にもハードな仕事ではありますが、職場のスタッフや日本にいる家族に支えられているお陰で今の自分があると思いますし、地道にやっていけばチャンスは巡って来るものだと思いますので、これからも元気に頑張っていきたいです。
 
(2007年12月16日号掲載)

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