辻野清重さん(元日系商社勤務 ▶︎▶︎ 現Stars & Stripes店長)

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「このままの仕事で、私の人生いいのかな?「自分らしいキャリアって何だろう?」など、 仕事に関して迷いを抱いたことはありませんか? 今特集では渡米後、ここアメリカの地でセカンドキャリアを見つけ、自ら未来を切り拓いてきた日本人4人にインタビューを敢行。彼らはどのような考え方を持っていて、どのような決断をしてきたのでしょうか。いきいきと人生謳歌する秘訣を伺いました。

 

アメリカ人が気付いていない、Made in USAの良さを伝えたい

 

辻野清重さん

つじの・きよしげ◎大阪府生まれ。1991年、日本で商社に入社。輸出部に配属後、円高の影響を受け、輸入アパレル品を日本国内で販売する輸入部に配属され、95年1月、同社ロサンゼルス支店に駐在として赴任。2009年に退社。14年、トーランスにStars & Stripesを開業した。

元日系商社勤務 ▶︎▶︎ 現Stars & Stripes店長
 
1995年に駐在員として渡米し、その後からずっと、アメリカ在住の辻野清重さん。「どんなに住み続けても”本当のアメリカ”なんて分からない」と、この国の奥深さに魅了され、「メイド・イン・USA」をコンセプトにしたアメリカン・ カジュアル衣料店、Stars & Stripes を、アメリカで開店。 同店立ち上げまでの経緯や、洋服への熱い思いを伺いました。

 

―はじめに、洋服店を開こうと思った理由を教えてください。
 
もともと洋服が大好きで、日系商社で、輸入アパレル品を扱う部署への配属を機に、ジーンズにスニーカーのカジュアルファッションでの出社を上司に訴えるほどでした。その後、駐在員として赴任したロサンゼルスで、取り引き先のアパレルブランドの商品を、ビームスをはじめとする日本のセレクト ショップに提案して売る仕事をしていました。仕事は楽しかったのですが、商社マンという立場はお店に商材を売るまでが仕事で、実際に売った商品がお店に並んだ後、どれだけお客さんに愛されたかまでの責任は直接 的に問われませんでした。それもあって商社での仕事では自分の「洋服愛」が満たされず、いつかは自分の店を持ちたいと考えたことがきっかけです。

 

―どうして日本ではなくアメリカで開店したのですか?
 
実はアメリカに来たばかりの時は「思い描いていたアメリカと違う」と戸惑っていました。日本のテレビや雑誌で紹介されているアメリカは、華やかで洗練されていて「いつもカッコいいアメリカ」なんですよね。でも 少し住んでみて、それはアメリカの一部を切り取ったものなんだと気付かされて、「じゃあ本当のアメリカって何だろう?」と 追求したくなったんです。それから22年経った今もその答えは分からないままなのですが、地域に住むアメリカ人たちがいつも気さくに交流してくれたおかげでアメリカの日常にたくさん触れられ、人脈も広げることができました。そんな「本当のアメリカ」の答えのヒントを与え続けてくれた彼らに、自分が恩 返しできることは何だろう?と 考えたら、日本人の立場だからこそ見えてくるアメリカ製のアメカジの良さを、アメリカ人に伝えたいというアイデアが思い浮かんだのです。

  

辻野清重さん

「もう学校終わったの?」などと世代を問わず、お客さんにさり気なく声をかける辻野さん。店主としての理想のイメージは、近所のプラモデル屋さんのようなフランクな存在。地域に溶け込んだお店を目指し、そのお客さんに一番似合ったものを考えて、勧めるようにしているそうです。

 

―実際に店舗に並んでいる商品は、どのような基準で選んでいますか?
 
アメリカではまだヒットしていない、つまり、アメリカ人がまだ知らないようなブランドに着目して選ぶようにしています。 例えば「ハンドメイド」と言っても機械で布をプレスして裁縫する手縫いではなく、100 %職人の手で縫っている手縫いを行っているようなメーカーをピックアップして、日本人が英語で「ハンドメイド」と聞いた時に想像するような、本当の意味での「手作り」の良さを伝えられるように心掛けています。そうやっ て選んだ商材なので思い入れが 強くて、ふらっと店を訪れた方 にも「この洋服は縫い方にこだわっていて、この糸くずは手縫いをしている証拠」とか「このインディゴデニムの香りいいで しょう?」とか、接客する時についつい熱く語ってしまうんで す。時に、お客さんから「あなた、そんなマイナーなアメリカのメーカーの製造過程までよく知っているわね。日本人なのにどうして?」と言われるくらい です。アメリカ人にとってのアメカジは、日本人にとっての袴や着物のような古き良き味のあるもの。そんなアメカジの、アメリカ人も知らなかったアメリカ製の魅力を紹介できた時は、とてもうれしいですね。

 

―そんな洋服への愛情で、お客さんの心を掴んでいるのですね。
 
店頭に並んでいる商品だけでなく店舗のデザインにもこだわりました。このお店を出店する前、ニューヨークやサンフランシスコに何度も足を運んで、自分にとって理想的な店内レイアウトのイメージを頭に叩き込み、カウンターの高さなど細かいところまでこだわって決めました。 店内で使われている木材も、アメリカ国内の廃木を使って研磨をかけ、トーランス近郊の大工さんと一緒になって仕上げました。ですから今の仕事は、趣味との境目がないくらい「大好き」 が詰まっているんですよね。私は人生というのは旅のようなものだと思っていて、思い返せば大学生の時にしていた 100種類以上のバイトは、自分が何が好きなのかを探るためにしていた旅の始まりだったと思います。 いつの日か人生の旅の終わりがくるまで、できるだけ長い時間、 自分の好きなことを追求し続けたかった。そうして見つけた自分の「大好き」をもとに作った お店だから、お客さんには一人一 人、真心を持って接したいといつも思っています。

 

―今後、取り組みたいことは?
 
ここロサンゼルスの洋服の工場数は減少傾向で「メイド・イ ン・USA」の商品は、他の都市のメーカーが増えてきました。中でもノースウエスト方面の、シアトル、ポートランドには、 製法にこだわったメーカーが数多くあるので、そうした生産地のお膝元で2店舗目を近いうちに展開できればと思っています。
 
(2017年10月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2017年10月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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