コンストラクション・マネージャー(その他専門職):細川 智徳さん

ライトハウス電子版アプリ、始めました

「完成形」を見て満足するよりも
人の苦労が刻まれた過程が好き

アメリカで夢を実現した日本人の中から、今回はコンストラクション・マネージャーの細川さんを紹介。日本各地やインドネシアを担当した後、現在はダウンタウン・ロサンゼルスで、2009年に開通予定の地下鉄「ゴールドライン」の地下セクションの責任者として、工事の指揮を執る。

【プロフィール】ほそかわ・ともなる■1966年生まれ。岩手県盛岡市出身。大学の土木工学科を卒業し、1990年に大林組入社。日本各地の工事現場で経験を積んだ後、入社4年目でインドネシアに赴任。埋め立て工事や工場建設を監督した後、渡米。コロンビア大学院でコンストラクション・マネジメントを専攻する。2003年よりダウンタウン・ロサンゼルスの地下鉄「ゴールドライン」工事主任。

そもそもアメリカで働くには?

世の中に役立つものを
作りたい

ミーティングルームの壁を使ったスケ
ジュールボード前にて、部下のエンジニアと

 子供の頃の夢は動物学者でしたが、小学校の夏休みに空港の工事現場を見学したことがきっかけで、橋やダム、地下鉄など「大きなもの」を作りたいと思い始めました。本格的に建設業を志望したのは、高校2年生の時。その後は、建築の仕事を思い続け、大学でも土木工学を専攻したのです。
 
 もともと、国内でも海外でも、「いろいろな所に行き、いろいろな物を見て、いろいろな人に会いたい」という気持ちが強くありました。大林組に入社してからは、現場のエンジニアとして、経験を積みました。どの仕事もそうだと思いますが、教科書というものはないので、すべて現場で覚えるのです。
 
 その間も海外工事を希望し続け、入社4年目でインドネシアに赴任。4年ほど滞在し、埋め立て地の造成や工場建設に携わりました。言葉も文化も風土も違う国での仕事は大変ですが、やりがいがあり、自分には合っていると感じましたね。
 
 日本に戻った後も海外志向は消えず、会社の留学制度を通じて渡米。ニューヨークのコロンビア大学院で、コンストラクション・マネジメントを専攻しました。その後、2004年より、ダウンタウン・ロサンゼルスの地下鉄「ゴールドライン」の工事主任を担当することになったのです。
 
 建設業には、陸や海、地下など、決まった分野の工事を担当する「専門家」と、いろいろな種類の工事を監督する、いわゆる「何でも屋」の2通りがあります。海外勤務の場合には、工事の種類も場所も選ぶことができないため、必然的に「何でも屋」になりますが、いろいろな仕事に携われる点で、好奇心の強い自分には向いていると思います。
 
 作るもの自体は同じでも、国が違えばシステムや工法などが違ったりします。例えば一般的に、日本では高度な技術を使いますが、海外では、コストを抑えるために、新技術だけではなく、20~30年も前の技術も含めて、最適な方法を見つける工夫が必要です。
 
 例えば、インドネシアの埋め立て工事では、海の中に杭を打ち込む際に、日本ならコンクリートを使うのですが、竹を束にして使いました。これはシンガポールの教授がオリジナルに考案したものですが、工事に竹が多用されたため、値段が高騰してしまったこともありました。
 
 その土地柄に合った建設アイデアを活かし、機械や材料、工程や組織を変えていく作業は、大変ですが、やりがいがありますね。

言葉や文化の壁を越える
周りとの信頼関係

 ゴールドラインの工事に携わって以来ずっと、朝は1時間半ほど現場回りをしています。日々の作業の確認と、自分の目で見ないとわからないことがたくさんあるため、毎日必ず1回は現場に足を運ぶようにしているのです。その後、デザイン確認や変更、図面管理、翌日の作業の打ち合わせなど、ミーティングを重ねます。
 
 スケジュール管理がとても大切なので、完成予定まで5年間の工程を1年、半年、3カ月、1カ月とブレイクダウンしていき、3週間先までは、1日ごとの作業工程の詳細を詰めます。道路を封鎖して工事をする必要がある時には、夜通しで作業することもありますね。
 
 スタッフは職員が60人と作業員が200人弱いますが、日本人は私を含めて3人。作業員の多くはスペイン語を母国語としているため、英語が話せる人間がチームリーダーとなり、まとめていきます。
 
 日本人同士で仕事をする場合と比べて大変な点は、「約束や期限を守らない」など考え方や文化の違いや、限られた人材のなかで「工程に合わせて、予算内に、決められたものを作る」という、この当たり前のことが、とても難しいのです。工事が遅れると、発注者に罰金を支払うことになるので、頭を悩ませます。
 
 これでベストということはないので、今までの経験から、「今日、明日、来月に何が大切なのか?」を綿密に考え、周りとの信頼関係を大切にし、スタッフの得意なところを活かすように心がけています。

好きだから考えるし
失敗も身になる

 この仕事をしていて、うれしい瞬間は、「それぞれの山場」が完成した時です。いろいろな人間の苦労が刻まれているという点では、監督や撮影監督、美術、編集など、多くの人が関わる映画製作などの「もの作り」と同じかもしれませんね。また、工事には危険が伴う作業も多いので、安全には特に気を配っていますが、そういった意味でも、無事にひと山超えた時には安心します。
 
 実は、過去に自分が関わった工事の完成形を見たことがないのです。工事は終わりに近づくにつれて、工程が減っていくので、最後まで残るスタッフの人数は限られます。そのため私の場合は、プロジェクトが完成する頃には、既に次のプロジェクトに移っているのです。
 
 でも、「完成形を見たい」というこだわりはありません。それよりも、「過程」が好きなんですね。料理でも、作っている過程が好きで、昔よくやっていたホームパーティーでも、半分の時間は、キッチンの中にいました。
 
 ゴールドライン完成まで、あと2年。特に思い入れのある場所はやはり、自分が関わっているリトルトーキョー駅と、ボイルハイツのMariachi PlazaとSoto駅でしょうか。
 
 建設の仕事を目指す時に大切なことは、「やる気」です。好きだから真剣に考えるし、失敗が身になるのだと思います。
 
 全体を監督する役割ですから、周りで何が起きているのかを敏感に感じ取り、必要であれば即修正する柔軟性や、協調性も求められます。体力ももちろん重要な要素ですね。
 
(2007年7月16日号掲載)

「アメリカで働く(多様な職業のインタビュー集)」のコンテンツ