モデル(その他専門職):竹谷 香織さん

ライトハウス電子版アプリ、始めました

何かになる必要などない。
自分であればいい
自分には自分だけの魅力があるのだから

今回はアメリカでTVコマーシャルや雑誌広告で活躍している、ライフスタイルモデルの竹谷香織さんをご紹介。競争の厳しいモデルの世界を生き抜き、自力で学び取ってきた成功へのコツを伝授してもらった。

【プロフィール】たけや・かおり■東京生まれ。武蔵野女子大学短期大学在学中にスカウトされ、モデルの世界へ。女性誌や広告、キャンペーンガールを経て渡米。ハリウッドの演劇学校に通いながら、エージェントに所属し、モデルとしてのキャリアをスタート。現在、「ライフスタイルモデル」として大手企業のCMや広告で活躍中

そもそもアメリカで働くには?

スカウトされてモデルに リセットするため渡米

スタイルも抜群の香織さん。ファッション
モデルとしてショーに出演することも

東京の短大に通っている時に山手線でスカウトされたことがきっかけで、モデルの道に入りました。ファッションモデル事務所に所属し、『CanCam』や『an.an』などの女性誌や雑誌広告の仕事を2年半ほどしましたが、この業界で自分らしさを失っていることに気付き、自分が目指す世界ではないと半年間休業することにしました。
 
その後、事務所を変わり、トヨタのレーシングチーム、TRDでキャンペーンガールを務めました。2年ほど続けましたが、華やかなこの世界も自分に合っていないと思うようになりました。当時、俳優養成所にも通い、演技の勉強もしていたので、そちらの道に進みたいという思いもありました。
 
モデルの仕事を始めて以来、自分はずっと流されている気がしました。また、家業の骨董品屋を継がなければならないという状況にもありました。そこでいったんすべてをフラットな状態にして、自分を見つめ直そうと、1年間、日本を離れてみることにしたんです。日頃から英語の必要性も感じていたので、アメリカで英語を勉強しようと、日本人の少ないサンタバーバラの語学学校に入りました。自分の世界が広がるのではという期待もありました。
 
東京では仕事に追われていたので、貯めてきたお金を使いながら学校に通うだけの日々というのは本当に楽しく、解放感あふれるものでした。そして、10カ月経った頃に答えが出ました。やはり芸能の道に進もうと。しかも、今度はアメリカで挑戦してみよう、何かをつかむまでは日本には帰らない。自分にとって大きな決断でした。
 
そこでロサンゼルスに居を移し、ハリウッドのシアター・オブ・アーツに入学。在学中にOPTが出るので、その間にいくつものエージェントに写真と履歴を送って、ハリウッドのエージェントに入りました。

エージェントはパートナー 売り込むのは自分自身

エージェントは日本とアメリカでは、そのあり方がまったく違います。日本ではエージェントが自分を売り込んでくれますが、アメリカではエージェントはオーディション情報を与えてくれ、ギャラの交渉をしてくれるところ。基本的には、自分で自分を売り込まなければなりません。エージェントは小さなところでも300人は所属しており、自分が仕事を取らないと存在さえ忘れられてしまいます。自分でオーディション用の写真を撮り、衣装もメークも自前です。エージェントとは二人三脚の関係ですので、自分をうまく売り込んでくれるところを見つける必要があります。また、こちらも自分が何をしたいか、きちんと伝えなければなりません。
 
また、エージェントは俳優業、CM、印刷広告と各専門に分かれているところも多く、地域でも郡ごとに分かれています。私の場合、ロサンゼルスでは各専門分野のエージェント3カ所に入っています。また、オレンジ郡、サンディエゴのエージェントにも入っています。
 
私はエージェントとだけ契約を結んでいますが、マネージメント会社にも所属している人もいます。また、どの専門分野においても、「LAキャスティング」というオンライン会社に写真や個人情報を登録することが必要です。そして、ある程度実績のある人は、「SAG(映画俳優組合)」という労働組合にも入らなければなりません。

日頃の積み重ねが大きな自信へとつながる

最近はJCペニーのTVCMや、VISAカード、Best Buy、トヨタやノキアなどの広告の仕事をいただいています。この仕事で楽しいのは、色々な人に出会えること。毎回チームで協力し合い、1つの物を創り上げるというのが楽しいですね。
 
オーディションはいつ行われるかわからず、「明日来てください」というのはいい方で、「2時間後に来てください」ということもあるんです。ですから、チャンスをつかむためには24時間、万全の態勢でいなければなりません。
 
大きなオーディションになると、応募者800人のうち、オーディションに出られるのが50人、受かるのが1人というシビアな世界です。ですから、この仕事は精神的にタフでなければ続けていけません。オーディションはなければ不安ですが、何十と受けても1つも受からないという時は落ち込みます。電話が鳴っても怖くて取れず、気力を失い何もできない時期もありました。
 
でも、大切なのは「Let it go」。失敗から何かを学んだら、次に進めばいいんです。自分には自分だけの魅力がある。アメリカには色々な役があるのだから、自分に合った役が必ずあるはずです。私はこれまで、アメリカで「アジア人になろう」としていたのですが、「何かになろう」とすると、絶対に仕事が取れないんです。何かになる必要などない、自分であればいい。自分というものを見せることで、相手の発想を広げることにもなるのですから。
 
ジョージ・クルーニーが「オーディションで『Can I have a job?』ではなく、『May I help you?』という姿勢で臨むようになってから仕事が取れるようになった」と、語った話を聞いたことがあります。相手もいい人を探しているんです。だから、いい自分を持って行けば喜ばれる。それには毎日の積み重ねが大切です。私は毎朝の瞑想と入浴、3度の食事を欠かしません。英語の本の音読や英語の書き取りをしたり、ヨガやエクササイズも行っています。小さな積み重ねが自信につながり、オーディションでもあがらず、いい仕事ができる。すべてが自分次第なんです。
 
まだまだ達成したい目標はありますが、今の自分があるのは周りの人の助けがあったからこそ。これからは感謝を込めて人の役に立つことをしていきたいと思っています。
 
(2008年9月1日号掲載)

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