幼稚園教諭(その他専門職):西尾 暁子さん

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子供にとって幼稚園は初めての社会
人間形成の場に携われることが素晴らしい

 今回は、南カリフォルニア大学付属幼稚園でクラスを担当している西尾暁子さんをご紹介。アメリカの幼児教育の現場に携わって5年。日米の幼児教育の良いところを集めた理想の幼稚園を作りたいという夢がある。

【プロフィール】にしお・あきこ■1973年奈良県生まれ。天理大学体育学部体育学科卒業後、地元の中学校で3年間、体育教師として勤務。98年に留学のため渡米。UCLAのエクステンションで早期幼児教育の資格を取得、サンタモニカ・カレッジで学士号。USC付属School of Early Childhood Education勤務

そもそもアメリカで働くには?

日々成長する子供に感動 幼稚園に進路を決める

担任するクラスでパジャマパーティーをした時の記念写真

 中学校1年生でソフトテニスを始め、高校も大学もテニスで入学しました。高校の時は全国ランキング4位、大学では国体7位。全国大会の個人で準優勝し、日本一を目指していました。実業団からの誘いもありましたが、選手生命は短いので、ずっとテニスを続けられる指導者、教師の道を選びました。
 日中は中学生にテニスを教え、夜は大学の体育学部で指導する日々。1年中テニスに明け暮れていましたが、23歳の時に初めて10日間という長期の休みを取ることに。インディアナポリスに留学している友人を訪ねたところ、自分ももっと世界を広げたいと思い、2年間の準備を経て、ニュージャージーに語学留学しました。当初は半年で帰るつもりでしたが、大学に入って体育学や教育学について学ぼうと考え、スポーツをするのにふさわしい環境のカリフォルニアに移りました。
 ロサンゼルスでTOEFLの勉強をしている間に、たまたま始めた地元の幼稚園でのボランティアが私の転機となりました。これまで教えてきたのは中学生でしたから、3~5歳児は新鮮で、日々著しく成長していく姿は目を見張るものがありました。彼らにとって幼稚園は初めての社会、大切な人間形成の場です。そこに携われることの素晴らしさを知り、これ以上やりがいのある仕事はないと幼稚園教諭になることを決めました。そこで、UCLAエクステンションで早期幼児教育の資格取得のコースを、1年間取ることにしました。
 クラスの中に、なぜかいつも隣の席になる女性がいたのですが、知識も経験も非常に豊富な人で、聞くと南カリフォルニア大学(USC)の付属幼稚園でディレクターをしているとのこと。仕事を探しているならウチに来ないかと誘われて、そこでボランティアを始めました。そして、フルタイムでの採用にも応募してみることに。1つの枠に10人以上が応募し、面接官は20人もいましたが、ボランティアしていた時の勤務態度が評価され、採用が決まりました。アシスタントの期間を経て、現在クラス担任として3年目になります。

創造力や社会性を伸ばす 遊びにも目的がある

 アメリカでは現在、資格だけでアシスタントになれますが、2011年からは学士コースを取っていることが必要になります。また、教員になった後も自己啓発のために教育を受け続けることが求められています。私も現在、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校でコースを取っています。その学費は勤務先からは出ませんが、County of LA Childcare Planning Committeeといった公的機関から奨学金を受けられる可能性もあります。USC自体は私立大学ですが、付属幼稚園は州立ですので、教員になるには州からの認可も必要となります。
 この幼稚園は5つの園舎に分かれ、私が働く園には3~4歳児、4~5歳児のクラスが全部で11あり、1クラスに17~20人の園児がいます。低所得者層の家庭の子供が対象で、園児にはヒスパニック系やアフリカ系アメリカ人が多く、教員も大半がヒスパニック系かアフリカ系アメリカ人です。英語が話せない保護者も多いため、担任・副担任のどちらかがスペイン語を話せないといけません。100人の教員がいる中で、私は唯一の日本人です。
 幼稚園では漫然と子供たちを遊ばせるのではなく、1つ1つの活動に創造力や言語力、社会性を伸ばすという目的を持って行っています。クラスを担当する担任と副担任、スーパーバイザーが毎週ミーティングを開いてフォーカスする園児を5人選び、彼ら1人1人のニーズに合わせた活動を行います。活動の中には、日常の中で起こりうる問題をどのように解決するかを話し合う「I can solve problem.」といったものもあります。室内は科学、お家、コンピューター、アートなどコーナーが分かれており、遊ぶ前に園児にどこに行って何をするか計画させ、片付けた後にその日何をしたかを振り返り、発表する時間も設けています。

生きているって素晴らしい 感動できる教育の場を

 クラスには身体や精神に障害のある園児もいます。クラス全体を見る中でその子供といかに接していくかが難しいところですが、ほかの子供たちも学ぶことが多いので、こうしたインクルージョンのクラスがもっと日本でも増えるといいと思います。
 指導上注意しているのは、それぞれの個性を尊重すること。毎日全員に同じだけ声をかけ、できている点を見つけてほめるようにしています。また、園児を個人として認め、子供扱いしないようにしています。
 アメリカらしいと思うのは、創造性を伸ばすために子供に“見本”を見せないところです。日本では工作や絵画指導に見本を見せることが多いようですが、そうすると創造性が発揮されません。また見本と違うものを作ると、“間違っている”ことになります。活動には正解のない、自由な発想ができるもの、子供に失敗させない、自尊心を損なわないものを選んでいます。
 この仕事をしていてうれしいのは、子供たちの成長が見られた時。そこに自分が貢献できたことに喜びを感じます。「I love coming to school!」と目を輝かせてくれる姿を見ると、やっていて良かったと思います。また、子供の様子は日々保護者に報告していますが、特に良いところを必ず伝え、保護者と協力し合いながら、子供をバックアップしています。
 それから、体育教師だったことを活かし、健康的な生活を指導しています。園児に食べ物の選び方や運動の大切さを教え、例えばラップのリズムに合わせ、「ハンバーガーはノー、ノー。ミルクを飲もう!」と歌ったりしています。また、毎週月曜日は2時間かけて、園の周りを散歩しています。
 いつかアメリカと日本の幼児教育の良いところを集めた幼稚園を、作りたいと思っています。そして、「学校って楽しい」「生きているって楽しい」と子供たちに感じてもらえればと願っています。
 
(2008年9月16日号掲載)

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