アメリカの大学入試制度と最新動向

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アメリカの大学入試制度を理解するためにはまず、アメリカの大学システムについて知る必要があります。日本の大学と大きく異なる点として以下2点が挙げられます。

  • アメリカの大学入試は学部や学科による選考ではなく、大学で一本化された入学審査(アドミッション)になっている。受験時に専攻が決まっていない学生がいたり、大学在学中に専攻を変更する学生も珍しくない
  • アメリカの大学入試は、日本のように「その時点で優秀な学生を選ぶ」ためのものではなく、「将来伸びる学生を選ぶ」ためのもの。高校での成績や試験のスコアだけでなく、学業以外の取り組み(ボランティア活動など)や人間性(エッセイ、面接)も評価に大きく影響する

それでは、アメリカの大学に進学する上でどのような入試対策が必要なのか、最新の入試傾向も踏まえて見ていきましょう。

 

2017年にアメリカの大学において予測されるアドミッション(入学審査)の進化

昨年は、SATが新テストに生まれ変わり、新出願システムが導入されるなど、アメリカの大学入試制度において大きな変革がスタートした年となりました。2017年は、その取り組みが各大学において本格稼働し、アドミッション(入学審査)が進化を遂げる年となりそうです。新政権発足など不確定要素も少なくありませんが、アメリカの教育分野において予測される今年の動向をまとめてみました。

①将来性評価の進化

アメリカの大学は、入学者選抜において学生の将来性を重視しますが、アメリカの難関大学が「コアリション」という新しいアドミッション・システムを採用し、入学者選抜における将来性評価が新たなステージに進みました。現状のアドミッション(入学審査)では、大学は限られた情報を基に短期間で受験生を評価しなければならないので、学生の将来性を的確に判断しにくいのが難点です。これに対して、コアリションでは、アドミッションが長期にわたって学生の評価を行うことが可能となります。
 
コアリション・アプリケーションの採用を決めた95校のうち、半数近い46校が2016~2017年度のアドミッションに準備が間に合わず使用できませんでしたが、2017~2018年度では全ての大学でコアリションでアプライできるようになります。

②低所得者層支援の進化

アメリカの大学生の2割が第一世代大学生(両親が大卒の学位を有しない学生)で、その半数は低所得者層と言われています。低所得や低学歴の家庭で育った学生は、学習や進学準備について支援が受けにくいため、高い潜在能力を持ちながら、その能力を十分発揮できず満足のいく進学ができない場合も数多くあります。そのような不利な状況に置かれた学生に適切な進学の機会を与えることは、貧困から抜け出すきっかけを提供することにもなるため、米国の大学にとって重要な使命です。学生はコアリションのシステムを通じてアドミッション・カウンセラーなどから無料でアドバイスを受けることにより、大きく成長できます。
 
低所得者層の進学を支援する新たなサービスも生まれました。慈善団体ブルームバーグ・フィランソロピーズがAmerican Talent Initiativeというプログラムを立ち上げ、2025年までに5万人の低所得学生に質の高い大学教育を受けさせることを目指しています。トランプ新政権になっても、低所得者層の進学を支援を加速する流れに変化はなさそうです。

③テスト・オプショナルの拡大

2016年3月にSATがリニューアルされ、高校の教育課程に沿った内容で学生の到達度を測るテストに変わりました。受験生からは、以前のテストよりも実力が発揮しやすいと評価されていますが、現時点では大学のアドミッションからの評価にはあまり影響はないようです。
 
ACTやSATなどのアドミッション・テストは、大学にとって、学生が大学で学習するのに十分な基礎学力があるかを判断するツールとしての利用価値はあります。とはいえ、学力評価の基本は高校の成績であり、高校で十分な成績を収めている学生にとって、あえてテストの結果で示すべきものはあまりありません。大学のアドミッションも、高校でしっかり学習できている学生のテストスコアに価値を見出さなくなります。
 
アドミッションにおいて人物評価をより重視するという傾向が強まる中、ACTやSATのスコア提出を任意とするテスト・オプショナルという制度を導入する大学が増えてきています。例えば、オースティン・カレッジも2017年度から新たにテスト・オプショナルを導入する予定で、この流れは今後も続くことが予想されます。

④ファイナンシャル・エイド

アメリカの大学にファイナンシャル・エイドを得て進学を希望する学生が家庭の経済状況などを登録するFAFSA(Free Application for Federal Student Aid)の登録開始時期が昨年から3カ月早まりました。これにより、FAFSAの登録時期が大学出願後から出願前に変わるため、受験生はFAFSA上で自分の経済的ニーズの状況を確認してからアプライする大学を決められるようになりました。
 
2016~2017年度のアドミッションでは大学・受験生ともに試行錯誤の状態でしたが、2017~2018年度は双方がこのFAFSAの変更をうまく役立てられるようになるはずです。学生が家庭の経済状況を考慮して大学を受けるようになれば、より自分に合った大学選びが進むと考えられます。
 
(2017年1月16日号掲載)

 

日本とアメリカの入試制度改革

2016年は、日本・アメリカともに大学入試制度において大きな変革の年となりました。日本では、2016年3月に文科省の諮問機関である「高大接続システム改革会議」の最終報告がまとまりました。これにより「大学入試センター試験」の廃止や「英語4技能試験」「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」等の導入に向けた準備が本格的に始動するなど、抜本的な入試制度の改革がスタートしました。
 
アメリカでは、2016年3月にSATを高校の学習要領(Common Core)に沿った内容に変更して、学習到達度を評価するテストにリニューアルしました。また、全米の難関大学がCoalitionという新しいアドミッション・システムを採用し、入学者選抜における将来性評価が新たなステージに進みました。さらに、FAFSA(Free Application for Federal Student Aid)の提出時期の変更など、ファイナンシャル・エイドの制度にも一部変更がありました。

 

日米の入試制度改革の狙い

日本とアメリカの入試制度改革は、全く関係がないように見えますが、実は、両者が目指す方向性は非常に似ています。
 
日本の高大接続改革の中核は、「学力の3要素」の適切な評価です。学力の3要素とは
1. 十分な知識・技能
2. それらを基盤にして答えが一つに定まらない問題に自ら解を見いだしていく思考力・判断力・表現力
3. これらの基になる主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度
の3つです。
 
この学力の3要素は、社会に出た時に求められる力だと考えられています。そして、大学入試において学力の3要素をきちんと評価できるようになることが、高大接続改革のゴールなのです。
 
社会に出た時に求められる能力を基準に学生を評価できるようにするという高大接続改革の目標は、将来性評価を基本とするアメリカの大学のアドミッション(入学審査)に通じるものがあります。つまり、日本の大学入試は、アメリカのアドミッション制度に近づこうとしていると考えられます。
 
アメリカの大学のアドミッションは、将来性をより的確に評価するために、学力以外の評価も重視しています。エッセイを通じて人間としての成長を評価したり、スポーツやボランティア等の課外活動への取り組みを評価したりすることにより、受験生の将来性を多角的に判断します。将来自らの力で人生を切り開いていく能力のある学生を、アメリカの大学は高く評価するのです。日本の高大接続改革では、将来性を「生きる力」という言葉で表しています。日本が取り組んでいるのは、単なる入学者選抜改革だけではなく、高校教育改革と大学教育改革も併せた一体的改革です。そして、この一体的改革の目的は、高校、大学教育を通じて「生きる力」を育むことなのです。文科省は「確かな学力」「豊かな人間性」「健康・体力」を総合した力が「生きる力」だと定義しています。
 
日本では、社会で必要な能力を習得するための教育が大学や高校できちんとできていなかったり、大学の学習で必要な能力と、大学入試で問われる内容が整合していなかったりと、教育における一貫性の欠如が問題視されてきました。高校・大学教育を通じて「生きる力」を育むためには、高校と大学が連携して「確かな学力」「豊かな人間性」「健康・体力」を伸ばす教育を行うことが必要です。そして、入学者選抜においても「生きる力」を評価することが望まれます。

 

入試制度改革の今後の長い道のり

アメリカでは、高校において大学レベルの教育プログラムを提供するAP(Advanced Placement)を60年以上前から導入するなど、長い年月をかけて理想的な高大接続を模索してきました。SATのリニューアルやCoalition Applicationの採用も、よりシームレスで効果的な高大接続を目指した取り組みの一環です。
 
日本の高大接続改革が、アメリカのアドミッション制度を目標にするのは素晴らしいことですが、実現への道は容易ではありません。詰め込み教育から思考力重視型の教育への転換を目指した、いわゆる「ゆとり教育」は、どれほど素晴らしい理念に基づいた制度でも、そのフィロソフィーを教育現場に浸透させられなければ失敗するという顕著な例です。高大接続システム改革会議の最終報告には、高大接続改革は「幕末から明治にかけての教育の変革に匹敵する大きな改革」だと述べられています。改革の成否は、これから大学進学を目指す子どもたちにとって極めて重大であり、日本政府のリーダーシップが期待されます。
 
(2016年11月16日号掲載)

 

2016年版アメリカの大学入試動向と対策

2016年は、SATが新テストに変わり、新出願システムが導入されるなど、アメリカの大学進学にとって大きな変革の年と言えるでしょう。今回は、今後予想されるアドミッション・大学入試制度の動向についてまとめました。

 

①アチーブメント重視

アメリカの大学のアドミッション(入学審査)は、学生の成績だけでなく人物も評価して、学生の将来性を見極めます。人物評価においては、学生のアチーブメントを重視する傾向が見られます。きちんと目標を立てて、それに向かって努力できたか、またその目標を達成できたかという点が入学審査で問われます。
 
ここで言うアチーブメントは、必ずしもずば抜けた成績を収めるという意味ではありません。日々の学習や活動の中で、目標を持って行動する機会はいくらでもあります。例えば、「課外活動がどんなに忙しくても宿題は必ず期限内に終わらせる」と目標に掲げて、実現できれば立派なアチーブメントです。
 
目標を持って行動し、それを実現する、その積み重ねが学生の成長を促し、将来の活躍につながるとアドミッションは考えて、成功体験を評価するのです。

②双方向コミュニケーション

受験生とアドミッション担当者が連絡を取り合うのは、アプライ後だけではありません。学生がキャンパスツアーに参加したり、アドミッションに質問のメールを送ったりすれば、双方向のコミュニケーションが始まります。そして、この時点からアドミッションがスタートしていると考えられます。
 
学生との双方向のコミュニケーションは、アドミッション(入学審査)でその価値が年々高まっています。アプリケーションの中身だけで受験生の将来性を見極めるのは難しいですが、時間をかけてコミュニケーションを取ることで、学生の成長の過程が把握でき、評価しやすくなります。
 
2016年秋から導入が予定されているコアリション・アプリケーションでは、「ハイスクール・ポートフォリオ」というシステムを通じて双方向のコミュニケーションを促します。学生は9年生からアドミッションとやり取りができ、成長を評価してもらったり、適宜アドバイスを受けたりできるようになります。
 
この双方向コミュニケーションは、今後さらに広く深く活用されるようになるでしょう。

③テスト・オプショナルの拡大

SATのリニューアルで、テストの役割も変わると予想されます。SATは、もともとは学生の将来性を見極めるのに役立つテストとして入学審査に取り入れられてきましたが、2016年3月から高校の教育課程に沿った内容で学生の到達度を測るテストに変わります。
 
解法テクニックの習得や難解な語彙の暗記といった、いわゆるSAT対策の必要性は少なくなり、高校できちんと学習していれば点数がとりやすくなるはずです。大学のアドミッションにとっても、学生が大学で学習するのに十分な基礎学力があるかを判断しやすくなるのは好都合です。
 
一方で、高校で十分な成績を収めている学生にとって、あえてテストの結果で示すべきものはあまりありません。アドミッションも、高校でしっかり学習できている学生のテストスコアに価値を見出さなくなります。
 
大学のアドミッションにおけるテストスコアの占める割合は現時点でも決して高くありませんが、今後は難関校を中心にテストスコアの提出を義務付けないテスト・オプショナルのアドミッションが増えることが予想されます。最良の進学準備は日々の学習の積み重ねですから、テスト対策よりもまずは高校で満足のいく成果を挙げることを優先しましょう。

④広がる学費格差

同じ大学でも学費は一人一人異なると言われるアメリカですが、生徒間の学費格差は年々拡大しており、その傾向が今後続くことは間違いありません。一部の裕福な大学を除き、アドミッションは限られたファイナンシャルエイドの予算を、欲しい学生をとるために極めて戦略的に活用しています。
 
大学の学費は高騰していますが、それもアドミッションの戦略です。優先度の高い学生には多額の奨学金を提示して入学を促します。一方で、その他大勢の学生からは高い学費を徴収し、授業料収入を増やします。
 
学費の値上がりは今後も続き、その分大学は評価の高い学生をより充実したファイナンシャルエイドで優遇することになるでしょう。従って、賢い進学のためには、単に合格できそうな大学を選ぶだけではなく、自分を高く評価してくれそうな大学を狙い定めてアプライすることが重要です。
 
(2016年1月16日号掲載)

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