大学スポーツにおける「アマチュアリズム」の終焉

帰国GO.com

(2025年8月号掲載)

ハウス氏対NCAA集団訴訟

2025年6月7日、連邦地方裁判所は、水泳選手でArizona State University出身のグラント・ハウス氏がNCAA(米国大学スポーツ協会)に対して起こした集団訴訟における和解案を承認しました。これは、学生アスリートが、大学から直接報酬を得てスポーツに取り組めるようになる画期的なもので、世界的に注目されています。

1906年にNCAAが設立されて以来、アメリカの大学スポーツは、アマチュアリズムが厳格に守られてきました。学生アスリートは、奨学金など、大学教育に直接関わる報酬以外を受け取ることが固く禁止されていたのです。そして、この規則を破った選手は、出場停止などの厳しい罰則が与えられました。NCAAとその加盟大学による制限は反トラスト法に反するとして、20年にハウス氏らが中心となって起こした訴訟が、ハウス氏対NCAA集団訴訟です。

NILが切り開いた報酬獲得への道

フットボールのコーチが年間数百万ドルの報酬を得たり、大学やNCAAがバスケットのトーナメントで莫大な利益を上げたりしているにも関わらず、その利益を生み出す学生が報酬を得られないのは不公平であるという議論は以前からありました。NCAAはアマチュアリズムを盾に強硬姿勢をとってきましたが、学生アスリートは自身のNIL(Name、Image、Likeness)の価値に見合った報酬を得ることを認めるべきという世論に後押しされ、複数の州で、学生アスリートがNILで利益を得ることを許可する独自の法律を制定し始めました。

決定打となったのは、West Virginia University出身の元フットボール選手ショーン・アルストン氏による対NCAA訴訟です。21年6月、最高裁判所はNCAAの規則がアスリートの収入機会を制限し、反トラスト法に違反していると全員一致で認めました。この判決を受け、NCAAは学生アスリートがNILで報酬を得ることを認めざるを得なくなり、同年7月から新たなNILルールが導入されました。

学生アスリートが報酬を得る方法

現在、NCAAの学生アスリートは企業などとスポンサー契約を結んで、SNS、コマーシャル、イベントなどで宣伝することが可能です。また、サイン会や講演会で報酬を得たり、子ども向けのスポーツキャンプを主催したりすることも問題ありません。

また、25年7月1日より、Pay-for-Play(学生アスリートが大学から直接報酬を得ること)が解禁となりました。つまり、大学と学生アスリートは、事実上の雇用契約を結ぶことが可能となるのです。

大学は、メディア放映権、チケット販売、スポンサーシップなど、特定の収益に対して最大22%を学生アスリートに分配して還元することになります。年額の上限は約2050万ドルですが、今後増加が見込まれています。この収益分配モデルの導入は、5大カンファレンスに所属する大学は必須で、それ以外の大学は任意となっています。

この収益分配は、現役の大学生だけでなく、16年までさかのぼります。16〜24年に在籍した学生アスリートに対して、全米の大学は損害賠償として総額約28億ドルを払うことになります。

大学スポーツに及ぼす影響

ハウス氏の和解は、大学スポーツのあり方を根本的に変える「新時代」の幕開けです。NILで報酬が得られる学生アスリートは、よりプロ選手に近い存在となるでしょう。

学生アスリートへの収益配分金は、文字通り収益に応じて配分されます。大学スポーツで収益があるのは、フットボールと男子バスケットボールだけです。収益を上げないスポーツに取り組む学生への経済的支援がどのように行われるのかは、現時点では不透明です。

新制度では、奨学金額の制限が撤廃され、代わりにロースターの人数制限が導入されると言われています。また、ウォークオンの学生(アスリートとしての奨学金を得ずに参加する学生)の人数が制限される可能性があります。大学スポーツからアマチュアリズムが失われるのは避けられませんが、大学が学生を育てる場であることは、今後も維持していただきたいものです。

(2025年8月号掲載)

ライトハウスCA版8月号の電子版はこちらから
ライトハウスCA版8月号の目次はこちらから

海外に暮らす学生のための「日本の大学への進学&留学ガイド」サイト

「アメリカ大学進学ガイダンス」のコンテンツ