
(2025年8月号掲載)
最近は、店によっては支払いマシンに25%や30%のチップの表示をしてくることもある。
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ここ10年で変化しつつあるアメリカのチップ
アメリカでは税制改正案が可決成立したが、その中で目玉の一つとされていた「チップ収入の非課税化」が実現した。これは、年間2万5000ドルまでのチップ収入について、連邦税の対象から外すという政策だ。ちなみに、この措置は現政権の公約だが、ライバルの民主党も昨年の大統領選では同じように公約に掲げていたので、全国的な合意があったと言っていいだろう。
この「チップ非課税」だが、アメリカ社会としては二つの意味合いがあると考えられる。まず、2014年前後から、一部のレストランなどで試行されていた「チップ廃止」の動きが、当面はなくなったと言えるだろう。当時の廃止論については、固定給にした方が人材が定着するとか、お客がチップを払い忘れるトラブルを避けるためなどの理由があった。けれども、多くの店ではチップ分を含む定価にすると「値上げ」がされたとしてお客が離れ、結果的にチップ廃止は失敗とされた。いずれにしても、今回の非課税化で、当面はチップ廃止論は消えるに違いない。
もう一つの関心事項としては、ここ10年ぐらい続いているチップ相場の上昇という問題だ。アメリカでは、レストランでもタクシーでもチップは15%程度という時代が長く続いたが、コロナ禍の少し前ぐらいから、大都市などから18%へと相場が上昇していた。原因としては、チップ収入に頼る若者への同情があったという説がある。現在では、その相場は限りなく20%になっている。コロナ禍で困窮したサービス産業の支援という面もあるが、支払画面にチップの推奨額を表示するマシンの影響という声もある。
この18~20%というのは、今でも多くの消費者にとっては「かなり高額」という印象があるようだが、今回の非課税化によってこの率がどう変化するかは、注目される。税金を節約したいのなら、現場としては、給与を減らしてチップ分を増やすのが得になる。けれども、働く側としてはあくまでチップは変動収入だ。そんな中で、チップの増額を期待して給与を下げるというのは労働者には不利益となるので理解は得られないであろう。
日米のチップ文化、これからどうなるか
一方で日本の場合はチップという習慣はあまりない。特に企業経営となっているホテルチェーンや、公的交通機関などでは、企業の方針としてチップの受け取りは厳禁というのが普通だ。では、チップ文化が全くないのかというと、必ずしもそうではない。例えば、高級な料亭や旅館では、特に食事がおいしかったり、特別な要望に応えてもらった場合には、板長や仲居さんに宛てて心付けを包むという風習はある。また、相撲観戦の際に、お土産や弁当を手配してくれる相撲茶屋を利用した場合、若い衆への心付けというのは定着している。またタクシーに乗った時には、荷物の扱いをしてもらったお礼に多めに払うとか、釣り銭を受け取らないで、そのままチップとするという場合もある。そして、多くの場合は運転手さんは喜んで受け取るようだ。
そう考えると、日本も全くの「チップなし文化圏」ではないとも言える。昨今の日本では、外国人旅行者がゴミの捨て方が分からなかったり、荷物の置き場に困るケースが増えてトラブルになっている。例えばホテルに多めにゴミを残した場合とか、乗り物などでスーツケースの置き場に困った場合などで、欧米のように「例外事項へのお礼はチップで」という「解決法」ができれば、お互いにイヤな思いをすることは減るかもしれない。
原則論を言えば、アメリカの場合もチップというのは、あくまで客とサービス提供者のコミュニケーションの一環と考えられる。そう考えると、良いサービスには多めに、明らかに問題があれば少なめにという柔軟性があってこそのチップということになる。まだ分からないが、今回の非課税化で、例えば20%は当たり前とか、いや25%だとかいうように、率が硬直化するようであれば、それはチップ文化としてはマイナスと思う。
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