アドミッションテストの未来 ACT・SATは不要になるのか

原田セミナー2026

(2026年9月号掲載)

「ACTやSATは受けた方がいいのでしょうか?」。近年、このような質問を受ける機会が増えました。背景にあるのは、ACTやSATのスコアを提出しなくても出願できる制度「テスト・オプショナル」を採用する大学が増えていることです。もうACTやSATは必要ないのでは?と思われるかもしれませんが、そうではありません。テストの役割が大きく変わり始めているのです。

テストだけで測れない生徒の可能性

20世紀のアメリカのアドミッションでは、ACTやSATは重要な存在でした。志願者が増え続ける中、大学は限られた学生を選ばなければなりません。そのため、アドミッションテストは受験生を公平に比較するための「共通のものさし」として利用されてきました。

ところが、21世紀に入ると多くの大学が疑問を持ち始めます。「テストの点数だけで、本当に学生の将来性を判断できるのだろうか」と。

実際、教育研究では、ACTやSATは大学1年目の成績をある程度予測できるものの、高校の成績(GPA)の方が、大学での学業成果をより安定して予測できると数多く報告されています。

大学が知りたいのは入学後の成績だけではありません。「知的好奇心を持ち続けられるか」「粘り強く挑戦できるか」「仲間と協力し、新しい価値を生み出せるか」、こうした力はテストでは測れません。そのため、アメリカのアドミッションでは、GPA、エッセイ、課外活動などを総合的に評価する「ホリスティック・レビュー」が広く採用されています。

難関大の一部では再び義務化に

21世紀以降、New York UniversityやUniversity of Chicagoがテスト・オプショナルを導入。その後、パンデミックを機に全米でテスト・オプショナルが導入されるようになりました。テスト・オプショナルが広がると大学から別の悩みが聞こえてきました。GPAのインフレです。学校によって採点基準がバラバラで、全ての生徒の成績を横並びで比べるのが難しくなったのです。

その結果、最難関大学の一部がテストの義務化や再導入へ戻っていきました。ただし、大学が見ているのは、点数そのものではありません。GPAと照らし合わせ、この生徒は大学で学ぶ準備ができているかを判断するための情報として活用しているのです。

「関門」から「健康診断」へ

かつてのACTやSATは受験生を選抜する「関門」というイメージでした。しかし、これからのACTやSATは「健康診断」に近い存在になっていくのではないでしょうか。健康診断は血圧や血液検査の結果で、その人の価値や人生や能力を決めるわけではありません。けれども、現在の健康状態を客観的に知るためにはとても大切な資料です。

ACTやSATも同じです。テストだけで生徒の可能性の判断はできません。しかし、GPA、履修科目、エッセイ、課外活動などと組み合わせることで、生徒を客観的に理解する重要な資料になります。つまり、テストは「合否の判断材料」ではなく、「生徒の基礎学力を理解するための資料」へと役割が変わりつつあるのです。

AI時代におけるテストの意味

この変化をさらに加速させるのが生成AIの普及です。これからエッセイやレポートの作成に生成AIの活用が当たり前の時代になるでしょう。だからこそ、本人がその場で発揮できる基礎学力を確認するテストには、今後も一定の価値が残ると考えられます。

大学が求める力は知識だけではありません。生成AIを適切に活用しながら自ら問いを立て、課題を発見し、協力して新しい解決策を生み出す力がこれまで以上に重要になります。そのような力は標準化テストだけでは測れません。だからこそ、大学は「テストの結果」と「生徒が歩んできたプロセス」の両方を見るようになっているのです。

大学入試は今、大きな転換期を迎えています。ACTやSATを必要か不要かで考えるのではなく、「学力を示す一つの資料」と捉えることが重要です。アドミッションテストがなくなるのではなく、役割が変わるのです。そしてその変化は「点数で評価する時代」から、「個々の可能性を多面的に理解する時代」へと大学入試が進化していることを示しているのではないでしょうか。

(2026年9月号掲載)

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