日本は準英語圏入りできるのか?

ライトハウス電子版アプリ

冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

(2025年6月号掲載)

冷泉コラム(準英語圏)

日本では2020年より小学3年生から英語が必修化に。5、6年生は週2コマ英語を学んでいる。

観光、映画、SNS…
英語が根付かない日本

今から25年前に当時朝日新聞の論説委員であった船橋洋一氏による『あえて英語公用語論』という新書が話題になった。けれども、せっかくの提言であったにもかかわらず、結果的にはかえって反対論を誘発することになり、問題提起は空振りに終わった。数年後に出た数学者の藤原正彦氏による『祖国とは国語』という本のブームはその代表であろう。
 
現在の日本では、やはり英語の普及は進んでいない。外国人観光客は激増しているが、多くの人は英語が通用しないことに驚いている。米英など英語圏だけでなく、大陸欧州やアジアからの旅行者も、口をそろえて英語が通じず、英語の表記が少ないことを嘆いている。日本の都市には不自然な英語の看板や、レストランのメニューなども依然として多い。例えば「行き止まり」が “The End” といったものだが、これも外国人の困惑を招いている。
 
英語の普及については、むしろ、この25年に後退しているとも言える。例えば、外国映画については字幕を付けて公開するのが常識だったのが、現在は大作映画を中心に吹き替えが広がり、そもそも洋画の比率が邦画に押されている。
 
また、英語によるSNSについては日本では受信も発信も進まない中で、英語文化圏の最新トレンドが日本に入るのはどうしても遅れてしまう。人口減と出版不況のせいで翻訳本の出版も激減した。

日本のエレクトロニクスは
なぜ後退したのか

経済的な影響も大きい。20世紀においては、日本のエレクトロニクスは世界の消費者市場を席巻していた。けれども、今では見る影もない。例えば、昭和の日本人が現在にタイムスリップしてきたとすると、スマホの存在に驚愕するであろう。もちろん、小さなマシンの中にコンピューター、電話、音楽プレーヤー、カメラをはじめとした無数の機能が搭載されている状態には目を見張るだろう。だが、それ以上に、そのようなスマホの設計はアメリカや韓国の企業であり、最終組み立ては台湾が主導して中国やインドが担い、日本は素材と部品を供給するだけという事実には愕然とするであろう。
 
これも英語の問題が大きいと考えられる。前世紀に日本が成功したテレビ、ラジオ、ビデオや音響の機器といったジャンルは、優秀な製品を作れば世界中で売れた。電源対応を多少変えるとか、カラーテレビの伝送方法やビデオカセットの仕様が複数あるといった違いはあっても、製品が良ければ世界の消費者が欲しがったし、取扱説明書も日本語で作って各国語に翻訳すれば対応できた。自動車が今でも成功しているのはこうした構造があるからだ。
 
ところがスマホは違う。各国により通信に関する規制が違うし、詳細な規格は各国の携帯キャリアごとに違う。OSやアプリも各国によって言語、法令や慣習が異なり、それに対応しなくてはならない。また部品や素材の調達は世界各国に広がっている。一方的に製品を作れば売れるということはなく、開発するにも販売するにも英語による膨大なコミュニケーションが必要だ。
 
スマホに限らず、日本の電機メーカーの多くが、世界の消費者を相手にするビジネスから企業や政府向けのビジネスにシフトしている。素材や部品もこれに含まれる。これは価格競争が厳しいというよりも、コミュニケーションの相手を特定できるからだ。
 
気が付くと、日本の一人当たりGDPはG7で最低となり、今では韓国どころか台湾にも抜かれつつある。多くの国が英語を準公用語やビジネス言語とする準英語圏に入ってグローバル経済に対応しているのに、日本の対応が遅れていることが主要な原因と言える。AIが翻訳してくれるから大丈夫などという意見もあるが、正しい表現をチェックできなければAIを活用することはできない。残された時間はない。まずは、1997年に小学校から英語を必修にしてスマホやSNSのビジネスで成功した韓国のカリキュラムを参考に、徹底的な教育改革を行うべきだ。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中
※このページは「ライトハウス・カリフォルニア版 2025年6月号」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

「冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点」のコンテンツ