こいのぼりの消滅と高額化するランドセル

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

世相と共に変化するこいのぼり

冷泉コラム_ランドセル

「ラン活」というランドセル選びを指す言葉もある。

5月の連休といえば「こどもの日」、つまり端午の節句であり、この時期になると日本中でこいのぼりが掲げられるのが一種の風物詩となっていた。だが、この鯉のぼりに異変が起きている。日本全国で、空中を泳ぐこいのぼりが見られなくなっているのだ。
 
原因としては、いろいろあるようだ。まず、都市部を中心に子育て世代ではマンションなどの集合住宅に暮らす家庭が多くなった。マンションのベランダに飾っていた時代もあるが、最近では、落下すると危険だとして、ベランダにこいのぼりを飾るのを禁止するマンションも多いという。その一方で、一時期は多くのこいのぼりをはためかせていた一戸建ての住宅地は、多くの場合、子供が独立して出ていってしまい、今は高齢世帯か空き家になっている。
 
もっと深刻な理由もある。庭にポールを立てて、こいのぼりを飾るというのは、その家には男の子がいるということを社会に対して公表するということを意味する。しかも高く掲げるとなると、遠くからでも一目瞭然というわけだ。最近の世相では、これは個人情報の漏洩の一種であり、したがって危険と考える家庭が多くなっているのだ。
 
こうした状況を踏まえて、こいのぼりというのは、個々の家庭が自分の子どもの成長を祈るのではなく、自治体などが大規模なイベントとして飾るものだというように、カルチャーが変わってきている。自宅で眠っている大型のこいのぼりを集めて、広い河原や競技場などで、盛大に飾り付けをするイベントも増えている。そうした変化の結果として、現在の子育て世代には、こいのぼりは、個々の家庭で飾るという意識は消えてきている。
 
同じように、五月人形の衰退も激しい。特に大型の兜については、現在の子育て世代には怖いというイメージが強いらしく、敬遠する家庭が多いという。これに続いて、弁慶や金太郎などの人形も、ほとんど消滅した。残っているのは、大将人形という、鎧兜を身に付けた人形だが、そのほとんどは、ゆるキャラ風の可愛い子どもが武士の格好をコスプレ風にしている小型の人形で、そのぐらいが辛うじて許容範囲なのだそうだ。
 
男の子向けのこいのぼりや五月人形と比較すると、女の子向けのひな人形はまだ多少は生き残っている。だが、こちらも場所を取るような七段飾りとか、大型の10人揃いなどは敬遠されて、ケース入りの小型のもの、あるいは本当に小さな壁に掛けられるようなものが増えている。

カラー、多機能、進化するランドセル

そうは言っても、日本の祖父母としては、孫の成長に合わせてなにか大きなものをプレゼントしたいという気持ちはあるし、経済的にも予算は存在している。では、こいのぼりも五月人形も、そしてひな人形も喜ばれないとなると、その、「おじいちゃん・おばあちゃんマネー」はどこへ向かっているのかというと、ランドセルである。
 
従来から、孫の小学校入学に際して、祖父母がランドセルを贈るという習慣は一部にはあった。だが、近年これがエスカレートしており、どんどん豪華になっているのだという。また色もカラフルになり、パステルカラーの中間色やツートーンカラー、さらには女の子用には派手な花柄なども登場している。
 
機能も豪華になり、2020年度向けのニューモデルではタブレット収納の機能も付いた。教育現場にタブレットが導入されるのであれば、重くてかさばる教科書は追放されてランドセルも不要になるかと思えばそうではなく、教科書に加えてタブレットも持ち運びしなくてはならないのだという。合皮のものでは2万円台からあるが、人気はやはり本革であり、10万円近いものまである中で、平均価格は5万円台となっている。
 
こいのぼりや五月人形は消滅しても、おじいちゃん・おばあちゃんマネーを当て込んだ商戦は、まだまだ健在というわけである。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

 

(2019年6月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2019年6月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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