大会終了の噂が絶えないWBC

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

WBC継続を阻むいくつもの問題

メジャーリーグ

2017年は第4回目のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の開催年に当たる。これまでの開催地は、 2006年の第1回から順にサンディエゴ、LA、そしてサンフランシスコとカリフォルニアを北上してきたが、今回はLAに戻って09年同様にドジャースタジアムで3月20日から決勝ラウンドが行われる。日本の代表チーム「侍ジャパン」は小久保裕紀監督の指揮下で、すでに何度も強化試合を行っており、前回は準決勝でプエルトリコに敗れ、優勝旗をドミニカに持って行かれた雪辱を果たす構えだ。
 
ところで、このWBCだが、残念ながら今回で「終わり」となる可能性がある。複数の情報筋に取材したとして11月にスポーツ専門チャンネルのESPNが報じているが、誰も大騒ぎしなかったということが、噂の信ぴょう性を高めているというのが現状だ。
 
問題はいくつもある。一番の悩みは興行収入が稼げないので、赤字が続いているということだ。テレビ中継の視聴率が上がらない中で、ここ数回は3大ネットワークも、ケーブルテレビのメジャーなスポーツ局も名乗りを上げず、結局はMLB機構が3分の2を保有する野球専門局「MLBネットワーク」が中継しただけだった。これでは、放映権収入にはならない。
 
チケットの売上も伸びていない。本来であればメジャーのポストシーズン並みの「プレミアム・チケット」にしたいのだろうが、満員にして球場を盛り上げるためには「MLB公式戦」よりも安い価格帯にチケット価格を設定せざるを得ないのが現状だ。
 
仮に「チームUSA」が快進撃を続けるようであれば、人気も拡大し、グッズ収入なども期待できるのだが、過去の大会では「準決勝敗退」が最高で、チームUSAは決勝に進んだこともないのである。これでは地元の盛り上がりを期待するのが無理と言うものだ。

微妙な実施時期による選手集めの難しさ

問題の背景には、実施時期もある。選手の疲労を考えると、MLBのシーズンが終わった秋ではダメ。また、夏のオールスター休暇の時期に実施という案もあったが、これも選手への負荷を考えると難しい。そこで、春のスプリングキャンプ期間中に開催することになっているのだが、そうなると参加できる選手には限りがある。
 
なぜかと言うと、契約最終年などでその年のシーズンの活躍が以降のキャリアに影響を与えるような立場の選手、あるいは球団にとって絶対にけがをしてもらっては困るような選手の場合は、WBC参加を辞退してしまうのである。従って、メジャーの一流選手の場合、長期契約の途中で身分が安泰であるか、身体が頑健で春先に真剣勝負をしても故障しない自信のある選手しか出てこないのだ。
 
日本人選手の場合も、松井秀喜は一度も出ていないし、今年の場合、田中将大、ダルビッシュ有、岩隈久志といったメジャー先発投手陣の参加は難しいと言われている。例えば松坂大輔の場合は、第1回と第2回の2大会連続でMVPに輝いているが、09年に肝心のレギュラーシーズンで故障してしまい、先発投手のWBC参加に関するイメージを悪くしてしまっている。
 
そんなわけで、今年の大会は、下手をすると最後の大会になる可能性が強いのだが、一方でMLBでは特にジョー・トーレ副会長が意欲を見せており、今年のチームUSAは一流選手を集めることに成功している。
 
監督にはマーリンズとタイガースで「名将」と慕われたジム・リーランド氏が就任するし、投手陣ではシャーザー、アーチャー、ミラーといった超一流が名を連ねている。捕手はポージー、内野にホスナー、アレナルド、外野にマカッチェン、アダム・ジョーンズ、イエリッチとなれば、これは文句なしのオールスター・チームになる。
 
個人的にはチームUSA対侍ジャパンの決勝戦が見たいし、その盛り上がりで次回以降も大会が存続して欲しいと思うのだが、さて、実際はどうなるだろうか?

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

 

(2017年1月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2017年1月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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