日本社会へのアメリカの影響に違和感

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

(2026年10月号掲載)

スポーツ、教育、ビジネスで取り入れられるアメリカ流

冷泉コラム(日本社会へのアメリカの影響に違和感)

日本の私大は総合型選抜や学校推薦選抜が増え、一般選抜での入学者は38.5%にとどまる。*

近年、日本からアメリカへの観光や出張は激減している。アメリカの本が翻訳されたり、ハリウッドの映画が公開されることも少なくなった。一方で、社会現象の日本への輸入は依然として続いている。
 
例えば、日本の野球界では近年、アメリカに倣って「ワン・ボール、ツー・ストライク」とボールを先にストライクを後に実況するようになった。MLBの中継を観る人が増えたからだと思われる。投球間隔の時間制限や、ストライク判定の自動化なども導入が検討されているようだ。
 
教育の世界でも似たような動きがある。例えば、成績の平均点であるGPAを重視するというのは、完全にアメリカの制度だが日本でも導入されている。特に就活の際にはGPAが重視されるようになり、文科系の学生も大学の成績を気にするようになった。もっとも、特に文科系の場合は、日本の企業は大学で学習した内容をほとんど評価しない。この点は変わらないのに高いGPAを求めるというのは、あまり意味のないことのように思われる。
 
入試制度もAO入試が総合型選抜と名前が変わる中で、受験生の部活や課外活動の履歴が重視されるようになっている。いいことだが、今でも残る一般選抜の場合はペーパー一発勝負なので依然として高3前半で部活は引退して受験勉強だけの生活になるらしい。社会として、高校生に一体何を経験してきてほしいのか意味が分からない。
 
総合型といえば、問題提起をしてその解決のために調査や討論を行う総合型学習を政府は強化している。それが、アメリカ型の「クリティカル・シンキング(批判的思考)」を鍛えることになるのなら素晴らしい。けれども、中学や高校になると生徒たちは受験を優先してしまうので、新しい試みは、どうしても低学年が中心になっており、小学校の教科書が厚くなるばかりというのが実情だ。
 
社会人の人事制度もアメリカを参考にした変革が進んでいるが試行錯誤が続いている。例えば世界的に新卒の初任給が高騰しており、日本でも外資や金融が牽引して大手企業では初任給が30万円を超えるようになった。けれども、OJT、つまり職場で先輩社員が経験則を指導する習慣は残っているので、先輩社員が自分より給与の高い新人を指導することで、モチベーションが低下している職場があるようだ。
 
働き方改革で残業が減ったのは喜ばしいが、成果主義の評価は導入されていない企業が多い。結果的に、同じ時間で成果が100でも50でも評価は変わらず、むしろ人当たりの良い社員が評価されることがあると聞く。

移民、政府
日米では異なる事情

一般社会に目を転じると、最近はアメリカの政治的メッセージが、そのまま輸入されているという傾向がある。例えば、日本における移民への視線は2025年から急に厳しくなったが、アメリカ社会の変化に影響されているのは明らかだ。アメリカの場合は、空洞化を是正し、AIが知的労働に置き換わる中で現場労働を重視しようという流れの中で、自国民の雇用を重視するという観点が出てきている。けれども、人口減により特に労働人口が激減してゆく日本の場合は、全く条件が違う。そんな中では、そもそもなぜ、今、移民に厳しくするのか大変に疑問である。
 
アメリカ社会について、もっとも誤解されているのが「小さな政府論」だろう。確かにアメリカの保守派は、福祉予算を縮小したがる。では、彼らは困窮層には冷たいのかというと、決してそうではなく、教会や地域を通じた相互扶助の習慣が根強い。一方で、日本の場合、アメリカのマネをして「小さな政府」とか「自己責任」などと言う人が増えたが、そこには困窮者への配慮は全くない。これでは保守主義ではなく単なる弱肉強食だ。
 
最大の問題は、変化の激しい時代において、日本の良さのどこを残して強みにするのかが見えていないことだろう。アメリカでの現象に振り回されているのはそのためだと思われる。

*令和7年度文部科学省委託調査「大学入学者選抜の実態の把握及び分析等に関する調査研究」
冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

※このページは「ライトハウス・カリフォルニア版 2026年10月号」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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