ジュディ・デンチ / Judi Dench

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(2025年8月号掲載)

凛とした存在感と気品ある風格

ジュディ・デンチと成田陽子さん

2025年に91歳になるジュディ・デンチは押しも押されぬ英国の大女優。丸い顔に小柄な体型にもかかわらず、人を睥睨するような表情がパワフル。王族や高官の役が多く、『Shakespeare in Love(恋におちたシェイクスピア)』(1998)のエリザベス女王役でオスカーを受賞。007シリーズでボンドのボス、Mを『GoldenEye(007/ゴールデンアイ)』(1995)以来8回連続して好演し、ほとんどボンドの母親のような存在になっている。同時に下町のおばさん役も絶妙で『Philomena(あなたを抱きしめる日まで)』(2013)、『Belfast(ベルファスト)』(2021)など、肌のぬくもりを感じさせる役作りには感嘆あるのみ。画面に彼女の顔が出てくるだけで、誰もが安心してドラマに吸い込まれてしまう。2012年に目の病気になり、脚本もほとんど読めないほどだったが、持ち前の勇気と覇気で映画どころか舞台にまで出演。この3年間はさすがに仕事から遠ざかっている。
 
初めてお目もじしたのは『Mrs. Brown(Queen Victoria 至上の恋)』(1997)、女王と厩番との密かな愛を描いた作品の時で、ジュディは柔らかそうなカシミアのショールをスタイリッシュに肩に掛け、低いながらも舞台で鍛えたよく通る声で、男女の機微についてしっとりと語ってくれた。「年配の大人のロマンスは深く静かに潜行して、時折、残り火のような炎が揺らめく。最愛の夫アルバート公を亡くして毎日を抜け殻のように過ごしていた女王が、夫の馬丁からめそめそするなと言われて励まされるうちに愛が芽生えるって心に染みるロマンスでしょう。私と夫との愛も深く静かに存在して、本当に正直な話、彼と同じ部屋にいるだけで私は幸せを深く感じる」。
 
彼女の夫はその後2001年に亡くなったが、その直後の『Iris(アイリス)』(2001)のインタビューにも毅然として現れ、自己抑制の極地を見せていた。内面の崇高さがにじみ出て、こちらがひれ伏したくなるようなノブレスオブリージュ(身分の高い人の義務)を放っていたのを思い出す。
 
最後に会ったのは『Victoria & Abdul(ヴィクトリア女王 最期の秘密)』(2017)の時。心配していた目の具合を聞くと「大丈夫、良くなりましたからご心配なく」ときっぱりと答えてくれたが、原因などを説明する気は毛頭なく、英国人は自分のことをペラペラ話すべきではない、という姿勢が感じられた。ところがその数日後の新聞に「もう一人で外出できない。旅行にも行けない。階段や道が見えなくなった」と告白した記事が載っていた。英国の宝とも言えるジュディとの数回の会見から、私は人間の品格というものをしっかりと把握することができたのである。

成田陽子

成田陽子
なりた・ようこ◎ゴールデングローブ賞を選ぶハリウッド外国人記者協会に属して30年余の老メンバー。東京生まれ、成蹊大学政経学部卒業。80年代から映画取材を始め、現在はインタビュー、セット訪問などマイペースで励行中。

※このページは「ライトハウス・カリフォルニア版 2025年8月号」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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