(2025年11月号掲載)
素顔は気さくな実力派俳優
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黒澤明監督の『天国と地獄』(1963)をベースにしたスパイク・リー監督の新作『Highest 2 Lowest(天国と地獄 Highest 2 Lowest)』(2025)では、『天国と地獄』で三船敏郎が演じた会社重役をアメリカ風に音楽界の重鎮という役どころに変えてデンゼル・ワシントンが熱演し、持ち前のカリスマ性を思う存分発揮している。
「白人の監督が手掛けたら絶対に私が出る機会はなかったろう。親しいスパイクが挑戦してくれて喜ばしい限りだ。この映画の後、引退するなどと私はほざいてしまったが撤回する。神が目的を持った使命、つまり仕事を私に与えてくれる機会を待つことにしたい。クロサワの映画のことは知っているが実はまだ見ていない。ストーリーでは誘拐犯が金持ちの私の息子だと思って間違えて運転手の息子を誘拐し、ここで私が悩み抜くという複雑な道徳観のあるドラマに引かれた」とベテランらしいコメントを出していた。
さて、デンゼルに初めて会ったのは最初のオスカーを取った『Glory(グローリー)』(1989)の時。すでに34歳だったがまだ若々しく、整ったルックスが目に優しく、そして新人らしい謙虚さを保っていた。
「少年時代はプロのバスケットボール選手になりたかったが、大学でジャーナリズムを専攻しながら舞台にも出るようになり、2年生の時に『Othello(オセロー)』の役をもらって、すっかり演技にハマってしまった」。
トム・ハンクスがエイズにかかる役を演じた映画『Philadelphia(フィラデルフィア)』(1993)のインタビューでは、トムの陰に回ってひたすらサポートに徹していて、エゴの全くない人柄が垣間見えて微笑ましかった。
デンゼルには「人柄の良さそうな柔らかさ」があって、例えば2016年のゴールデングローブ賞授賞式で功労賞(セシル・B・デミル賞)を受賞したのだが、授賞式がスタートしてからすでに時間が経っていたために、テーブルの上のワインやらをかなり飲んでおり、壇上に上がってからしどろもどろのスピーチをしたのである。「かっこいいスピーチをしよう!」などと気張らない彼のキャラクターが露呈して、それがまたクールだったのを思い出す。
つまり本格的なインタビューでもあまり深刻にならず、「まあ、お互いに気楽にしゃべろうぜ」という姿勢を貫き、原稿にする時は内容が薄くなりがちで困りものだが、一緒にいるとリラックスして楽しいスターなのである。

成田陽子
なりた・ようこ◎ゴールデングローブ賞を選ぶハリウッド外国人記者協会に属して30年余の老メンバー。東京生まれ、成蹊大学政経学部卒業。80年代から映画取材を始め、現在はインタビュー、セット訪問などマイペースで励行中。










